パートタイム労働者の賃金 その10

パートタイム労働者の賃金 その9」につづいて、基幹労働者なのか、紛らわしい、あるいは境界領域の検討です。いくつかのケースがあります。 アウトソーシング、外注  「パートタイム労働者の賃金 その9」で書いた警備、メインテナンス、社員食堂などの業務は、現在、アウトソーシング、外注化されることが多くなっています。これらの業務を請け負った会社にとっては、これらの業務は周辺業務ではなく、本業です。したがって、そこで働く労働者は、その会社にとっては、基幹労働者だと言っていいでしょう。パートタイム労働者がその仕事に就いていれば、基幹労働者となったと言っていいのかもしれません。  しかし、所属する企業の立場を離れてみれば、やはり、付随的な業務に従事していることに変わりはありません。  問題は二つあります。  まず最初に、このような業界は、比較的労働集約的で、競争の激しい業界だと言うことです。メインテナンスなどはその典型でしょう。どうしても、一定人数の労働者を雇用しておくと言うよりも、請け負えた業務量に応じて労働者の人数を調整するという戦略を採用するケースが多くなります。その一環として必要な時間帯だけ人を雇うという戦略が採られ、比較的パートタイム労働者の割合が高くなります。  また、サービス内容が標準化していることから業務の質での競争が困難です。価格競争中心になるということです。この価格競争でも、特別な技術を使う余地が少なく、人件費をいかに安くするかということが重要になります。  結果として、このような企業に勤めるパートタイム労働者は、勤めている企業の基幹業務に就きながら、雇用が不安定で賃金が安いと言うことになりがちです。これを企業の雇用管理を改めることにより、改善する余地は少ないでしょう。 単純作業  これまで、熟練労働者しかできなかった仕事を、単純労働者ができるようにするために、昔から努力が払われてきました。分業というのが一つの手段です。国富論に釘の製造が分業によって行われるようになり、生産性も向上したことが書かれています。最近では仕事を分割し、定型化し、マニュアルにしたがって作業をすればいいようにしたり、コンピュータを活用して、判断を不要にしたり、簡易にしたりという試みが盛んです。(一方で、仕事の分割方法を考えたり、マニュアルを書いたりする仕事が、必要になってきます。)  外食産業では、調理が基幹業務です。かつてはそれなりの技能を持つ調理人が各店舗で調理をするという形態が主流でした。現在チェーン店ではセントラルキッチンでかなりの程度調理し、各店舗では極簡単な調理にとどめるというやりかたが主流でしょう。これによって、かつてよりも生産性を高め、技能が低く、賃金の安い労働者で対応できるようになっています。外食チェーンの店でのウェイター、ウェイトレスもコンピュータ端末を使うのが普通です。また、ファストフードの店も高度にマニュアル化されています。  スーパーマーケットやコンビニの店員の仕事もコンピュータの利用とマニュアル化によって熟練度の低いパートタイム労働者の活用を進めています。発注もパートタイム労働者が携帯コンピュータを利用してできるようにしているところもあります。    このようにかつて熟練労働者がやっていた仕事をパートタイム労働者がやる場合、昔のやり方をそのまま続けるのではなく、仕事のやり方を変えるケースが多く見られます。この場合も基幹業務に従事していることに変わりはないのですが、勤続年数が伸びても熟練度が高まる割合は少なく、雇用の安定、賃金の上昇は期待できません。  これらのビル清掃員、調理士、調理士見習い、給仕従事者、チェッカー、販売店員は、 「パートタイム労働者の賃金 その2」の表で示したように、パートタイム労働者の比率が高く、賃金の低い職種です。 入門  比較的簡単で、学校を卒業してきたばかりの新人に、育成をかねてやらせていたような仕事があります。オフィスワークならコピー取りなど。企業の中でこのような仕事がなくなることはありません。その仕事量に応じた新人がいれば、それですむのですが、採用を絞って人数が少なくなった場合、このような仕事は派遣社員やパートタイム労働者、アルバイトに任せると言うことがあります。また、新人といえども即戦力となることを求め、そういう仕事をやらせないというところも増えているように思います。  このような場合のパートタイム労働者は、学卒後数年間の間の正社員がやっている(いた)仕事と同じ仕事をしていることになります。  これを基幹労働者と見るのか、そうではないと見るのか、微妙です。  パートタイム労働者の勤続期間が伸びたから「基幹化」している、パートタイム労働者が正社員と同じ仕事をしているから「基幹化」しているという主張をよく聞きます。「だから基幹労働者にふさわしい賃金を」と議論を展開していくのであれば、仕事の中身、位置づけを十分慎重に検討して見る必要があるでしょう。   もちろん、パートタイム労働者の仕事に応じた賃金体系、賃金水準を設定し、能力開発をしていかなければ、企業は必要な労働力を確保できません。そのような努力に欠ける企業は淘汰されていくでしょう。特に需給がタイトになれば、その虞は高くなります。基幹化論とは別に、自社の採用、労務管理を見直す必要が高まっています。 人気blogランキングでは「社会科学」の35位でした。クリックしていただいた方、ありがとうございました。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング