介護職員 その2

介護職員」で、日経新聞の記事に関連して次のように書いたところ、bewaadさんから「介護等における市場競争」というTBを、そしてdojinさんからも「介護サービスは需要過剰?」というTBをいただきました。 「介護職員の賃金が低すぎて人手が足りないなら、市場原理に従って賃金を上げればいいではありませんか。別に絶対的に不足しているわけではありません。給料が低く、有給休暇が取りにくいから人が集まらないだけです。 普段は市場原理を称揚しているのに、なぜか、こういう福祉の分野の労働市場では市場メカニズムに順応して賃金を上げることを考えもしないのでしょうか?」 短い記事でしたので、分かりにくいところがあったかと思いますので、説明をします。少し長くなってしまいますが、ご容赦下さい。 まず、背景説明です。介護については二つの市場があります。介護サービス市場と介護労働市場です。 介護サービス市場は、介護サービスを提供する介護サービス事業者がとその利用者、利用者の家族、介護保健の保険者からなる市場です。この市場の特質はdojinさんが、TBの中で要領よくまとめられています。TBの「第二に」以下の部分です。是非お読み下さい。こちらは、市場ではありますが、完全に自由な市場ではなく、ある意味で政府によって直接コントロールされた市場です。 もう一つの介護労働市場は、介護サービス提供(供給)のために必要な労働者を雇用する市場で、介護事業者が買い手、介護労働者が労働力の売り手です。こちらは、政府の直接のコントロールは受けていません。日本に徴兵制があり、良心的徴兵拒否が認められていれば、兵役に服する代わりに介護施設で働くことを強制する可能性がありますが、現在の日本ではそういうことはありません。労働条件が気に入らなければ、ここで働く義務は誰にもありません。労働者を集めようと思えば最終的には労働条件で勝負する事になります。 二つの市場は、密接につながってます。介護サービス市場でサービスを提供するするためには、介護労働市場で労働者を雇わなければなりません。介護サービス市場での供給は、必然的に介護労働市場での需要に結びついています。介護報酬が決まっていれば、労働者に提示できる労働条件の上限もある程度決まってしまいます。この意味でdojinさんが「介護労働者の賃金を上げるには、・・・・・介護報酬単価を引き上げることが、まず、必要なのである」と書かれているのは、将にその通りです。付け加えるなら、介護報酬単価を引き上げるには、介護保険料の引き上げが必要でしょう。 以上が、背景説明です。 私が、「介護職員」を書いたときに考えていたのは、介護労働市場が需要超過(供給不足)であるということです。単純に、現在の賃金、労働条件の下で介護労働者が不足しているからです。多くのハローワークなどでも求人はあるが、応募者が足らず充足できないという状態が続いています。 dojinさんのご指摘に関連しますが、介護労働市場が、需要超過であるということは、介護サービス市場が供給不足(需要超過)であるということです。実際に現在の介護保険制度の下でサービスを受けたいという方々がいて、そのサービスを提供する介護労働者が足りないのですから。それが具体的に、入所したくても受け入れてもらえないと言う「量の不足」という形で表面化するるか、希望すれば入所はできるが夜間の身体拘束など不十分な介護しか受けられないという「サービスの質の低下」という形で隠蔽された形で現れるかはケースバイケースでしょう。私がここで言っている「需要」は、dojinさんの言われる「真の有効需要」ではなく、現在の制度の下での需要です。 実は、このような介護サービス市場の供給不足(需要超過)は大きな問題をはらんでいます。介護保険は強制保険です。保険料徴収に当たっては、介護が必要になったとき、サービスを提供することが前提になっています。保険料だけ取って、約束した給付をしないなどと言うことが許されるはずはありません。 一方、保険財政のバランスから現在の保険料の下では介護報酬を引き上げるのが困難であれば、保険料を引き上げて介護報酬を引き上げ、そして労働者の賃金、労働条件を引き上げて、介護労働者を確保し、介護サービスの供給不足を解消すべきです。 私が、「市場メカニズムに順応して賃金を引き上げる」と書いたのはこういう意味です。市場メカニズムに任せて賃金が上がるのを待っていようということではありません。介護サービス市場の特質からそのようなメカニズムは働かないからです。 日経新聞の記事について言えば、「絶対的に不足する」というのは事実誤認でしょう。また、低賃金で働く労働者を外国から呼んでこようという発想の背景には、福祉の仕事は低賃金であるべしと考えているのかなと思います。あるいは、保険料を上げたくないとことかもしれません。もしそうなら、低賃金の外国人労働者を招いた場合の社会的コストを理解していない、あるいは目をそらしているのだと思います。 なお、以前に、介護保険について「切実な求めと有効需要」という記事を書いたことがあります。あわせてお読みいただけると、介護保険に対する私のスタンスがお分かりいただけると思います。お読みいただければ幸いです。 次回はbewaadさんのTBにお答えたいと思います。bewaadさんを軽んじて後回しにした訳ではありません。この記事を書いた上でお答えする方が、説明がしやすいのです。 人気blogランキングでは「社会科学」の16位でした。クリックしていただいた皆さんにお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。今日も↓是非クリックをお願いします。 人気blogランキング