リフレ政策の検討 その2

リフレ政策の検討 その1」の続きです。

 日銀が長期国債を買って民間主体にインフレ期待を生み出し得るでしょうか?

 単純に、民間の主体が、「日銀がこれだけ長期国債を買えば、インフレになるだろう。」と予測すれば、確かにそうなります。

 しかし別な予想をする可能性がないわけではありません。いくつか例を考えてみます。

Ⅰ 日銀が長期国債を銀行から買うと言うところから始めます。この場合、銀行が持つ日銀の当座預金が増えます。ここまでは誰も否定しません。そこから先で何が起こると予測するかの問題です。

1 銀行が何もしないと予想する。この場合、実際にも何も起こりませんから、インフレ期待が生じることはないはずです。

 

 こんなバカなことはないと思われるかもしれません。しかし、銀行が自己資本比率を現在の水準以上に保とうとする場合には、あり得ないことではありません。

 銀行が自己資本比率を計算するときには、自己資本÷資産で計算します。

 この場合の資産は、資産額×リスクウェイトで計算されます。そして国債のリスクウェイトはゼロです。長期国債は分母の資産にカウントされません。

 銀行が日銀に国債を売って、その代金で民間企業に対する貸し出しをしたとします。民間企業に対する貸し出しのリスクウェイトはゼロではありません。したがって、銀行の資産は増加し、自己資本比率は下がります。

 この低下を銀行が避けようとすれば、国債の売却代金を当座預金に置いたままとなります。銀行が極端に防衛的なときは、銀行が何もしない、少なくとも民間への貸し出しをしないという予想が成立し得ます。

 なお、この場合、日銀の当座預金残高は巨額になります。日銀がそれを嫌えば、国債を売り戻して残高を圧縮することになります。結局元通りになります。

 銀行が自己資本の少なさに苦しんでいたり、突然不良債権が発生したりするリスクを高く見積もっているときには、リフレ政策が功を奏さない虞が高いと言うことです。

 では、現在(2006年1月)の段階で、こういう事態が発生するかというとその可能性は少ないように思います。一応、不良債権の整理もすすみ、「銀行の税金 その2」で、紹介したように銀行の利益も増加し、自己資本も分厚くなっていますから。

 次に進んで、銀行が貸し出しをしようと思ったとき、貸し出しを行えるかどうかの問題です。貸し出しを行う場合には、銀行から借り入れる主体が必要です。また、借り入れを行った企業がそれを何に使うのかという問題も出てきます。

2 民間主体XがA銀行から借り入れ、B銀行からの借り入れを返済する場合。こういう貸し出しは比較的安全でしょうから、実行されやすいでしょう。Xが信用のある企業であれば、銀行を競わせて、金利の圧縮を図るでしょう。しかし、これデは、銀行部門全体から見れば、貸し出しが全く増えていません。この場合もインフレ期待は生じません。B銀行に預金をする場合も同じです。

 現在でも、このような事態は起こり得ます。

3 Xが銀行から借り入を元に土地、既発の債券や株式などの国内資産(この資産は、当期生産される財やサービスではありません。)をYから買う場合。この場合には、二つの現象が起こり得ます。一つは、資産価格の高騰です。もう一つは、Yが受け取った代金を何に使うかです。銀行からの借り入れを返済したり、預金したりするとⅠの2に戻ります。

 貨幣は取引に際して用いられます。資産の取り引きも含まれます。

貨幣の量×貨幣が1年間に取引に用いられる回数≡1年間の資産の取引量×資産価格+1年間の財・サービスの取引量×財・サービスの価格

 と考えます。貨幣の量を増やしても、それが資産取引量の増加と資産価格の上昇で吸収されてしまえば、に回ってしまえば、資産価格+財・サービスの取引量の増加と財・サービスの価格の上昇が同時に起こる余地がなくなってしまいます。

 これは、いわば資産だけのインフレ、一種のマネーゲームが起こるケースです。民間主体が皆マネーゲームにのめり込めば、財・サービスの価格は上がりません。リフレ政策がバブルをもたらす可能性はあります。現在、でも、こういう事態が発生する可能性は十分にあります。

 もっとも、マンションなど生産し得る資産の価格が上昇した場合、その生産が行われるという可能性は十分位あります。、

(続く)

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