リフレ政策の検討 その1

リフレ政策を少しだけ勉強しようと思って、田中秀臣著『経済論戦の読み方』講談社新書1760を手に入れて読んでみました。田中先生は「ノーガード経済論戦」(http://blog.goo.ne.jp/hwj-tanaka/e/6109feaace886eb1424d4069da6c825c)というブログを実名で運用されています。

いくつか疑問と感想が湧いてきました。

お断りしておきますが、リフレ政策に限らず、よほどとんでもないものでない限り、政策は状況次第で、有効な場合も有効でない場合もありますし、適切な場合も適切でない場合もあります。特定の状況を前提として始めて、有効性、適切性を議論できます。

例えば、公共事業で道路を造るというのは、交通渋滞がひどい場合には有効、かつ適切でしょうが、立派な道路があって、十分機能しているときに平行道路を造るのは通常不適切です。しかし、将来交通量が急増するのが分かっているなら、そのような道路でも適切でしょう。要は、状況に見合ったものであるかどうかです。

湧いてきた疑問、感想は、あくまで現在の日本という特定の状況の下でリフレ政策を採ることに対する疑問です。

なお、念のためですが、私は現在リフレ政策については、判断できるだけの材料を持っていません。でてくるかもしれない疑問は、将に疑問です。婉曲な否定ではありません。

言ってみれば、これは,私のリフレ政策理解のための旅です。ご意見のある方、ご教示いただける方のコメント、TBを歓迎します。少し長い旅になりそうなので、休み休み、のんびり行くつもりです。

極端に要約するとリフレ政策は、次のような前提の下で、以下のように実行され、効果を生み出し、成果を上げるもののようです。なお、リフレ政策は田中先生の専売特許というわけではないので、田中先生の考えていらっしゃるリフレ政策以外のリフレ政策というものも、当然存在しえます。

以下での議論は『経済論戦の読み方』第1章を私が読んで理解した「田中秀臣版リフレ政策」を前提としたものです。

1 名目金利が著しく低い。(前提1)

2 物価が下がり続けている。(前提2)

3 総供給と実際の増需要の間に巨額のギャップが存在する。(前提3)

4 このため、財政政策でこのギャップを埋めるには実行できないほど巨額の支出、減税を必要とする。(前提4)

5 政府と日銀が緩やかな物価上昇を政策目標として合意し、公表する。(政策1)

6 この目標の公表と同時に、日銀はこの目標物価上昇率に満たない間、ある程度の利子の付いている(貨幣とあるていど代替的ではない)長期国債を買い続けることを宣言する。(政策2)

7 日銀は実際に目標物価上昇率に満たない間、長期国債を買い続ける。(宣言を実行する。)(政策3)

8 この結果、企業や家計がこの目標物価上昇率が実現すると予想するようになる。(効果1)

9 (前提1)の下で必然的に、企業や家計の予想する実質利子率(名目利子率-物価上場率)は、-か、きわめて低い水準になる。(効果2)

10 企業は投資に踏み切り、家計も消費を増やす。つまり、総需要が増える。(効果3)

11 現在、総供給は上限に達してはいないのだから、総需要が増えればある程度の価格上昇と雇用者の増加を伴いつつ、生産は拡大する。(効果4)

12 かくして、景気は回復する。(成果)

さて、(政策1,2)が(効果1)を生み出す条件は何でしょうか?

まず、このような政策を政府、日銀がとり続けるということを民間の主体が信じるということです。現時点で言えば、与党は衆議院で圧倒的な多数を占めていますから、与党がこの政策でまとまり続けることができればいいのです。

そこで、これを(追加すべき前提候補1)とします。

「与党がこの政策でまとまり続け、政府、日銀がこのような政策をとり続ける。」ということを民間の主体が信じること。

次に、十分な量のある程度の利回りのある長期国債が存在しなければなりません。目標物価上昇率に達しない間買い続けると、すぐに長期国債がなくなってしまえば、この政策は実行不可能です。

これを(追加すべき前提候補2)とします。

「十分な量のある程度の利回りの長期国債が存在する」と民間の主体が信じること

では、このような「ある程度利子の付いている長期国債範囲はどれぐらいでしょうか。「ある程度の利子率」を1%と考えると、2006年1月4日の公社債店頭売買参考統計値を見ると残存期間6年以上が1%を超えています。

そこで、残存期間6年以上の国債がどれぐらいあるかを財務省の資料で調べてみます。

http://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/siryou/zandaka06.pdf

少し古いので、推測ですが約260兆円、多めに見積もって300兆円とします。

この国債を誰が持っているかが問題です。日銀が持っているものは当然除外しなければなりませんし、政府が持っているものも除かねばなりません。また、海外が持っているものも国内での貨幣供給になりませんから除きます。

これも推測ですが、市中金融機関が持っているものが33%、その他の個人や企業などが7%のようです。

すると、買い入れ対象は95兆円から120兆円ということになります。これは、「十分な量」でしょうか?(疑問1)

(続く)

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