財政再建・試算・梅の謎

今日は、「財政再建・試算・「梅」」で書いた質問にお答えしたいと思います。 まず、財政赤字を出し続けるのだから、最初は国債発行残高を名目GDPで割った値が増えていくのは分かる。でも、赤字が出続けるのに、なぜ途中から改善していくのか?」 「梅の計算式」の均衡維持の条件を思い出して下さい。「国債発行残高×名目GDP成長率=国債発行残高×名目利子率+税収で賄いきれなかった国債の元利支払い以外の支出」であれば国債発行残高を名目GDPで割った値を一定に保てるのでした。 ちょっと、ややこしいのですが、おつき合い下さい。この計算式の両辺から「国債発行残高×名目利子率」を差し引きます。すると、 国債発行残高×名目GDP成長率-国債発行残高×名目利子率=税収で賄いきれなかった国債の元利支払い以外の支出 になります。 左辺を少し整理します。 国債発行残高×(名目GDP成長率-名目利子率)=税収で賄いきれなかった国債の元利支払い以外の支出 となります。これからは、この式を基に考えていきます。 「国債発行残高×(名目GDP成長率-名目利子率)」が「税収で賄いきれなかった国債の元利支払い以外の支出」よりも小さければ、国債発行残高を名目GDPで割った値は増えます。逆に、「国債発行残高×(名目GDP成長率-名目利子率)」が「税収で賄いきれなかった国債の元利支払い以外の支出」よりも大さければ、国債発行残高を名目GDPで割った値は減ります。 さて、前回の試算の前提は、二つありました。 「名目GDP成長率-名目利子率」は、常に0.3で変わりません。 「税収で賄いきれなかった国債の元利支払い以外の支出」も16兆円で、一定です。 最初の年、左辺の「国債発行残高×(名目GDP成長率-名目利子率)」は、550兆円×0.3%ですから、1兆6,500億円です。右辺は16兆円ですから、明らかに左辺<右辺です。先ほど書いたように、国債発行残高を名目GDPで割った値は増えていきます。 同時にもう一つの変化が起こります。「利払額」+「税収で賄いきれなかった国債の元利支払い以外の支出」だけ国債が発行され、国債発行残高が増えています。具体的な額は、550兆円×1.4%+16兆円ですから、23.7兆円です。 このようにして国債発行残高が増えていくと、左辺の「国債発行残高×(名目GDP成長率-名目利子率)」は、どんどん増えていきます。一方、右辺の「税収で賄いきれなかった国債の元利支払い以外の支出」も16兆円で、一定ですから、いつかは、右辺=左辺になります。そのいつかというのは国債発行残高の0.3%が16兆円になったとき、つまり国債発行残高が5,333兆円になったときです。このとき、国債発行残高を名目GDPで割った値は、一定で、変化しません。 しかし、この時点でも国債は発行され続けています。そして、左辺の「国債発行残高×(名目GDP成長率-名目利子率)」は、さらに増え、右辺の「税収で賄いきれなかった国債の元利支払い以外の支出」、16兆円を上回るようになります。このような状態になると、国債発行残高を名目GDPで割った値は、今度は減り始めます。 長くなりましたが、これが、国債発行残高を名目GDPで割った値が最初のうちは増加し、一定になりは、今度は減り始める仕組みです。なお、国債発行残高は一貫して増加します。 次の質問は、「途中から改善するのはいいが、なぜ、改善し始めるのにこんなに時間がかかるのか?改善が始まってからも遅々たる歩みになるのは何故か。」です。 これは、国債発行残高を名目GDPで割った値が一定になるのは、国債発行残高の0.3%が16兆円になったとき、つまり国債発行残高が5,333兆円になったときであることから分かります。名目GDP成長率1.7%と名目利子率1.4%の差が0.3%と小さいからですす。この差がもっと大きければ、もっと早い段階で改善が始まります。改善ペースもずっと早くなります。 試みに、名目GDP成長率がさらに1.5%高い3.2%の場合を計算してみました。名目利子率との差は1.8%です。0.3%の6倍です。
第四の試算(兆円、倍)
国債発行残高名目GDP倍率
0年5505001.10
10年目8036851.17
20年目1,0939391.16
30年目1,4261,2861.11
40年目1,8091,7631.03
 国債発行残高を名目GDPで割った値は、15年程度でピークに達し、それ以後減り始めます。ピーク時でも、この値は1.18倍でそれほど大幅に高くなるるわけではありません。名目GDPに対する利払い額も1.7%未満です。   なお、名目GDPの成長率は3.2%ですから、実質GDP成長率がマイナス2%でも、物価上昇率は5.2%です。 最後の質問は、「赤字を出し続けながら改善するというのは、どう考えてもおかしい。名目成長率が名目金利よりも高いというだけでこんなにうまくいくのか?何か、計算にトリックがあるのではないか?」です。 実はあります。それは、「毎年の国債関係以外の支出の内税収でまかなえない額」を16兆円とし、この額は年が経っても変わらない」としていることです。果たして、これを守れるでしょうか。せっかく、「名目成長率を名目金利よりも高くする」ことに成功しても、放漫財政に流れ、その結果、「毎年の国債関係以外の支出の内税収でまかなえない額」がどんどん増えていくと、(例えば16兆円が、20兆円、40兆円と増えていくと)いつまで経っても、国債発行残高を名目GDPで割った値は、下がりません。(ある程度までの増加であれば、下がり方は緩やかになりますが、下がることは下がります。) この場合は、「たとえ名目成長率を名目金利よりも高くすることに成功しても、破局を迎える。」のです。 私は、このような赤字額の固定ができるかどうかは、名目成長の中身に係っていると考えています。 長くなりましたので、この点については、次回に回します。 人気blogランキングでは「社会科学」の24位でした。クリックしていただいた方、ありがとうございました。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング