一般に公正妥当と認められる逸失利益? その2

一般に公正妥当と認められる逸失利益? その1」の続きです。

平均賃金について考えてみます。

裁判所の考え方の基礎は、被害者が将来得る賃金を適当な割引率で割り引いて、現在補償されるべき逸失利益を計算するということのようです。多分別に様々な調整が行われるのだろうと思いますが、基本はこうでしょう。

その計算を簡単にするために、実務上平均賃金を用いるということではないかと思います。あるいは、法律の観点から別のロジックがあるのかもしれませんが。

ではその平均賃金はどのように計算されるべきかを考えてみます。簡単化のために、次のような例を作ってみます。

1 労働者は3年だけ働く。

2 1年目の賃金は200万円、2年目の賃金は300万円、3年目の賃金は700万円である。

3 この賃金構造はずっと変わらない。

こうすると、生涯の賃金収入は、200万円+300万円+700万円=1,200万円です。

3年働くのですから平均賃金は1,200万円÷3=400万円です。これは一人の労働者の1年あたりの賃金です。

裁判所の考え方にした従えば、この平均賃金を基礎に逸失利益の計算が行われるべきでしょう。

では、賃金構造基本統計調査の年齢計の平均賃金はこのような数字なのでしょうか。実は違うのです。

賃金構造基本統計調査の平均賃金は、今働いている労働者の平均賃金なのです。

先ほどの例を基に考えましょう。今1年目の労働者が2人、2年目の労働者が1人、3年目の労働者が1人いるとします。年齢構成がフラットではなく賃金の安いところに山があると仮定しています。

このときの賃金の総額は、200万円×2人+300万円×1人+700万円×1人=1,400万円です。労働者は4人ですから、平均賃金は、1,400万円÷4人=350万円です。

もう一つ例を作りましょう。今度は1年目の労働者は1人、2年目の労働者が1人、3年目の労働者が2人いるとします。年齢構成がフラットではなく賃金の高いところに山があると仮定しています。

このときの賃金の総額は、200万円×1人+300万円×1人+700万円×2人=1,900万円です。労働者は4人ですから、平均賃金は、1,900万円÷4人=475万円です。

このように計算されているのが賃金構造基本統計調査の年齢計の平均賃金です。これはあるとしに働いている労働者の1人あたりの平均賃金です。基本的に裁判所が考えている1人の労働者の1年あたりの賃金とは別物なのです。

逸失利益の計算に、このような賃金構造基本統計調査の平均賃金を使うと言うことは、ある労働者がタイムマシンに乗って労働者生活の1年目を2回繰り返す、あるいは3年目を繰り返すという不自然な仮定をおいていることになってしまいます。

これでは「一般に公正妥当と認められる逸失利益」とは言えないのではないでしょうか。

ではどうすればいいか。二つの方法で、比較的簡単に解決することができます。

第一の方法は、平均賃金の計算を変えることです。賃金構造基本統計調査では、年齢階級別の賃金が出ていますから、これを単純に足して平均を取ればいいのです。(年齢階級の幅が違うので多少の調整は必要です。)昨日の記事で実際にやっておきました。

賃金構造基本調査の年齢計で年間賃金収入を試算すると、542万7千円です。一方、裁判所の思想にあわせた単純平均で試算すると、489万7千円です。差は53万円、約10%です。

ついでですが、単純平均の方が低くなるのは、現時点では賃金の高い定年前の中高年齢者の数が、賃金の低い若者や定年後の高年齢者より多いからです。

第二の方法は、年齢計の平均賃金を使わずに各年齢ごとの賃金をそれぞれ割り引いて、その値を足しあげることです。昔なら計算が大変だったかもしれませんが、今なら表計算ソフトで簡単に計算できます。必要なら早見表を作っておけばいいでしょう。私は、こちらをお勧めします。

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