高付加価値経済に向けての官民役割分担

労働市場のタイト化が進んでいくと何が起こるのか?」の続編です。

「人手不足対策」についていろいろ議論が行われています。私は、労働市場がタイトになっていることは認めるものの、現時点では、日本経済全体を見れば労働力人口も就業者も労働投入も順調に増え続けているので「人手不足」というべきかどうか迷っています。

ただ、中期的に見れば過去の少子化の結果として人口は減るでしょうし、労働力人口も減っていく可能性は高いでしょう。仮にそうでなくても、我々が経済的に豊かな生活を送るためには、人的資本を蓄積し、人的資本1単位当たりの付加価値生産性を高めていく必要があります。この「我々」がどの範囲化というのは、かなり微妙な問題があり、議論の余地があるのですが、まあ、通俗的な意味で。

このような課題に取り組んでいくにあたり、大事なのは官民で目標を共有することと、無理のない役割分担をすることです。

まず、少子化対策は官主、民従だろうと思います。児童手当など現金給付や産婦人科、小児科の整備、保育所の整備などは基本的には官が中心になって取り組んでいくべきでしょう。もっとも、産前産後の休暇、育児休業などは企業にも協力していただかなければなりません。

教育も官主、民従でしょう。義務教育、高校無償化、国立大学の設置運営、私学への助成は基本的には官の役割でしょう。企業から研究費や奨学金を提供してもらうことはあるにせよ、主たる責任は官にあります。

これに対し、人的資本への投資のうち採用した後30歳ぐらいまでの教育訓練、付加価値生産性向上のための設備投資、技術開発などは、民主官従だと思います。多くの人が仕事に就けるよう作業環境の改善を図るのも民間の仕事でしょう。官の行うことはこれらの企業のバックアップ、環境整備でしょう。

環境整備の中で一番大事なのは、このような企業の努力がペイするようにするということです。社員の教育訓練をしても、生産性向上のための投資をしても、作業環境を改善しても、それらを活用できるだけの仕事がなければ意味がありません。意味がないどころか、無駄なコストを払うことになります。経済の需要の安定的な成長を図ることが重要です。

余談ですが、2016年度のGDPを見ると実質成長率は1.2%です。このうち0.5%分を民間需要が稼ぎ、0.8%分を純輸出で稼ぎました。合計すると1.3%です。つまり公的需要が0.1%分足を引っ張ったのです。こういうことをやってはいけません。機動的な財政運営が必要です。

次に大事なのはこのような努力をした企業がしなかった企業との間の競争で不利にならないことにすることです。低賃金の外国人労働者を雇用したほうがつらい努力をするより有利ということにしてはいけません。

要するに、官はなるべく労働市場をタイトに保ち、「人手不足」という状態が続くようにすべきなのです。そういう見通しが立てば企業は自信をもって人材育成や投資をすることができます。低付加価値、低賃金産業が成長産業であるのでは困ります。

もう一つ官が気を付けるべきことがあります。それは労働市場ほ逼迫に対して柔軟に官製価格、賃金を調整することです。官は労働市場では一プレーヤーにすぎません。介護報酬、保育料を調整し、それを原資の一部として賃金を引き上げ、必要な労働者を確保しなければなりません。特に質の低い保育がまかり通った場合、子供の健やかな成長が阻害され、数年後には教育への負担が高まり、十数年後には質の高い学卒者が得られなくなる恐れがあります。また、非正規の公務員の賃金を低いままに保つと行政の質が低下します。

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