「
家計調査の検証」で書いた大きな変化に対する私の評価は、1実際にはそのような大きな変化は起きていない、昨年の値が実態より大かった、きすぎたというものです。
家計調査では地域を、人口の大きい方から、大都市、中都市、小都市A、小都市B・町村の4つに区分しています。勤労者世帯の世帯主の定期給与の額は、大体予想がつくと思いますが、この順に大きいるのが通常で、小都市B・町村は2010年1月から2014年10月まで不動の第4位でした。
定期給与の額にも季節変動があるかもしれませんのでと思われるので2010年1月から2013年12月までの48か月の平均をとると次のようになります。
大都市 380,030円
中都市 347,448円
小都市A 339,123円
小都市B・町村 314,404円
全国平均は348,675円だったので、小都市B・町村は全国平均を100として90.2に相当していました。
ところが、2014年11月、突如として第三位になり、全国平均に対して96.0となりました。
その後の経過は次の通りです。
2014年12月 3位 97.9
2015年1月 3位 98.0
そして、2015年2月には2位に浮上し、全国平均を上回る100.1になりました。
3月には3位、97.5に下がりましたが、4月には再び二位に浮上し、102となりました。
5月には3位に戻り、97.8,
6月、3位 96.3と続き、
7月にようやく4位に戻りました。全国平均に対しては94.2でした。
8月以降は4位が続いています。
8月は、91.5
9月は、93.9
10月は、90.8
11月は、88.3
12月は、92.7
2016年1月は、88.6となり、
最新の2月は、86.5です。
このような変化を生じさせるような要因があったかといえば、私には心当たりはありません。2014年12月から2015年9月ごろまでの間に標本として選ばれた世帯の構成がこの地区の平均的な構成とかなり異なるものになっていた可能性が考えられます。そこで世帯の属性から検証を試みました。
小都市B・町村の世帯(2月)(%)世帯主の年齢 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 14→15 | 15→16 |
---|
30歳未満 | 2.5 | 4.0 | 1.9 | 1.5 | △2.0 |
30歳台 | 22.5 | 13.6 | 19.1 | △8.9 | 5.5 |
40歳台 | 26.5 | 36.2 | 30.1 | 9.6 | △6.1 |
50歳台 | 29.4 | 32.3 | 27.4 | 2.9 | △4.9 |
60歳台 | 18.2 | 11.7 | 19.2 | △6.4 | 7.5 |
>70歳以上 | 0.9 | 2.2 | 2.2 | 1.3 | 0.0 |
この表からは、賃金の高い40歳台、500歳代の世帯主の構成比が上がり、低い30歳台、60歳台のものが下がるという現象が2015年に起こり、2016年位は元へ戻っていったことが見て取れます。
小都市B・町村の世帯(2月)(%)世帯主の職業 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 14→15 | 15→16 |
---|
常用労務作業者 | 50.6 | 38.1 | 45.6 | △12.5 | 7.5 |
臨時、日々労務作業者 | 0.0 | 0.4 | 0.0 | 0.4 | △0.4 |
民間職員 | 31.7 | 39.4 | 33.9 | 7.9 | △5.8 |
官公職員 | 17.7 | 21.8 | 20.5 | 4.1 | △1.3 |
そしてこの表からは、抽出された世帯の中で賃金の低い
ブルーカラーの割合が減り、高いホワイトカラーの割合が2015年に高まり2016年に元に戻ったことが分かります。
最後は、世帯主の勤め先の企業規模です。
小都市B・町村の世帯(2月)(%)有業人員の勤め先企業規模 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 14→15 | 15→16 |
---|
1から99人 | 33.9 | 26.9 | 31.2 | △7.0 | 4.3 |
100から999人 | 15.4 | 14.5 | 17.4 | △0.9 | 2.9 |
1,000人以上 | 9.9 | 9.3 | 8.6 | △0.6 | △0.7 |
官公 | 18.5 | 22.2 | 20.5 | 3.7 | △1.6 |
不明 | 22.3 | 27.1 | 22.2 | 4.7 | △4.9 |
2015年には小企業の割合が減る一方、官公と不明の割合が増え、2016年には元の方向に戻ったことが示されています。
このような急激な変化と元の水準への回帰がこの地区の勤労者家計に起こったとは考えにくいでしょう。2015年に一時的にサンプルとなる世帯に偏りが生じ、2016年には偏りがなくなったと考えるのが妥当です。
したがって、現在の家計調査は水準としては信頼できるが、前年同月比の減少は過大なものになっていると思われます。2月は特に2015年2月が2位になった年ですから、減少幅が過大に出ていると思われます。
この判断が正しければ、今年の5月以降、このような効果は薄れ前年同月比の減少幅は小さくなるはずです。8月には統計を普通に受け止められるようになると思われます。
なお、このような偏りが生じたのは、おそらく次のような理由だと推測しています。家計調査では、まず、1,200ほどある人口5万人以下の市と町村の中から42の市町村を選びます。各市町村で2つの単位区を選びます。単位区は
国勢調査の調査区を二つ合わせたもので、世帯数は100位であるはずです。各単位区から二人以上世帯を6世帯選びます。したがって選ばれた市町村で12世帯が選ばれることになります。
単位区は1年継続して調査します。月に12分の1の調査区を入れ替えます。世帯は6か月間継続して調査し、その後入れ替えます。なお、市町村は
国勢調査の結果に基づいて決定されているので、時々入れ替えられています。
このようにある程度継続して単位区や世帯が選ばれる結果、大都市近郊の通勤圏にあるような市町村で比較的いいベッドタウンのような住宅地が多い地区が偶然多めに選ばれると、このような現象が起こりえます。特に今回の場合、2015年に公務員が増えているところを見ると、2015年には公務員住宅がある市町村や単位区が選ばれた可能性が考えられます。
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