これまで書いてきた「
毎月勤労統計でみる労働経済の動き(2015年9月)」では、前年同月比の変化を解説してきた。
毎月勤労統計が最近の
労働市場の状況を把握するための速報統計(構造統計に対する速報統計という意味で、速報、確報という意味での速報ではない。)であることを考えれば、前月比で分析すべきであるという立場もあり得るし、そのような分析をすることに異議を唱えるつもりは全くない。
私が、これにあまり手を出さないのには、季節調整の問題がある。多大な努力がはらわれて季節調整が行われ、毎月季節調整値が発表されていることには感謝している。ただ、現時点では、季節調整値に基づく議論をする自信が持てない。理由は次の通りだ。
1 季節調整の宿命として、過去の季節変動パターンに基づいて最近の原数値から季節調整値を求めるしかないということがある。時がたてば現在は過去になり、現在の季節変動パターンによって再度季節調整が行われる。このとき同じ月の季節調整値は変化する。毎月勤労統計では、1月に過去にさかのぼって修正が行われるのが常である。指数に多少の変化が出ることになる。すると前月比も変わることになる。
2 最近は、季節調整値は前月比1%未満のわずかな動きしかしていない。
1に加えて2があると、季節調整がやり直されると前月比の数字が元の数字に比べて大きく変わる恐れがある。+3.1%と+3.3%なら判断を変える必要はあまりないだろうが、+0.1%と+0.3%では判断に違いが出てくる。-0.1%から+0.1%のように符号が変わってしまえばなおさらである。
現在の状況で季節調整値に基づいて判断するのには相当な熟練が必要であろうし、私は、その域には達していない。前月比でみるのはいささか躊躇せざるを得ないのだ。
しかし、今回は季節調整値の前月比についてあえてコメントしようと思う。というのは、「経済を良くするって、どうすれば」というブログの「
この記事」に、季節調整値の前月比に基づく私と対照的な意見が示されたからだ。ご意見は次のとおりである。
昨日、毎月勤労統計の確報が公表になり、給与総額の季節調整済指数は99.1と対前月で横バイ、常用雇用は106.2で+0.1であった。給与総額は、6,7月のボーナスの撹乱をはさんで、停滞が明らかになった。常用雇用も減速があらわとなって、昨年の増税後の夏の停滞局面と同様の動きになっている。この感じからすると、10月の消費もあまり期待できまい。
常用雇用の伸びが停滞気味なのは事実だが、中身を見るとよくなっている点があり、そう悲観する必要はないだろうというのが、私の理解である。次の表を見ていただきたい。2015年に入ってからの季節調整値の前月比の動きである。年率には換算していない。
季節調整値の前月比(%)月 | 常用雇用 | うち一般 | うちパートタイム | 労働投入 |
---|
1月 | 0.4 | 0.1 | 1.1 | 2.1 |
2月 | 0.2 | △0.3 | 1.1 | △0.9 |
3月 | △0.1 | △0.1 | △0.7 | 1.2 |
4月 | 0.4 | 0.8 | 0.0 | 0.7 |
5月 | 0.2 | 0.2 | 0.5 | △3.0 |
6月 | 0.3 | 0.0 | 0.7 | 2.1 |
7月 | 0.2 | △0.1 | 0.6 | 1.0 |
8月 | 0.1 | 0.2 | △0.1 | △1.7 |
9月 | 0.1 | 0.3 | △0.1 | 0.4 |
労働投入は季節調整済み常用雇用指数に季節調整済み総実労働時間指数をかけたもので計算している。本来は原指数×原指数を季節調整すべきだが、できないのでこうしている。
8月、9月は常用雇用全体の増加率は低下しているが、その内一般労働者の増加率は上昇している。全体の伸びが低いのは、パートタイム労働者が減ったからである。労働投入の伸びは低いのが気がかりだが(とはいえ年率に直すと4%を超える。)、一般労働者の伸びがこれだけ高ければ、そう悲観することはないと考えている。
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