所得が減っても消費は緩やかに増える理由

所得が減っても消費は緩やかに増えるのか?」で示した疑問に対する答えが日本経済の視点⑤で書かれています。 現在のマクロ経済学の標準的な消費理論は、「社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その25 」で書いたように、今期の消費は、今期以降の実質利子率と将来の賃金と現在の手持ち資金の割引現在価値の増加関数である。 ただ、一つ注意が必要なことがあります。本来なら借り入れをして現在消費するのが適切な人がいます。現在の所得は低いし、手元の資金も少ないけれど、将来は高い所得が見込める人たちです。この人たちが借り入れができない場合は(借入制約があると表現されます。)、消費は現在の所得で決まります。可処分所得に占める消費の割合、平均消費性向は著しく高くなります。この人々の現在の可処分所得が増えると、増えた分のうち消費に回る割合、限界消費性向も著しく高くなります。 以上をもとに考えると、今回の記事は、ちょっと整理がし切れていないような印象を持ちますが、まず、次のような理由が挙げられています。 個人消費の好不調は、雇用・所得環境に加え、短期的には消費者心理の動きにも大きく影響される。消費者心理が改善すると、消費が所得の伸び以上に増え、所得の増加が限定的ななかでも消費は下支えされる。 なんとなく、基本は現在の雇用・所得環境としているようですが、必ずしも正統的ではありません。 2012年末以降の回復局面では(中略)(平均)消費性向が上昇し、消費回復を支えてきた。 これは勤労者世帯のことを言っているようです。このような減少は、現在の所得が回復しないまま、将来の所得の見通しが改善した場合、一時的に所得が減った場合、手持ち資金の実質価値が、外生的に増えた場合に起こります。 こうした消費者心理改善の背景には、前回取り上げた雇用・所得環境の改善や先行きの賃金上昇に対する期待がある。加えて良好な企業収益を反映した株価上昇による資産効果も消費性向の押し上げに作用した。 過去の説明としてはいいのですが、現実に実質賃金が減っていること、株価がこれまでのペースで上昇し続けるとは思えないことを考えると、将来はこううまくはいかないと思います。ただ、雇用が増えたことによって借入制約にあった低所得者層が消費を増やすという可能性は高いでしょう。 この後触れられている消費者の低価格志向の後退等はそれほどしっかりしたものとは思えません。環境次第で逆転の可能性はあります。 今回の記事で触れられていないのは、価格下落が下落するという意味でのデフレ予想がなくなったことによる行動の変化です。貨幣を持っていることの収益が下がってるので、それが消費に回る可能性があります。 私は、雇用、特にフルタイム労働者の雇用拡大が消費を支える最大の要素であると考えています。賃金上昇と組み合わさって実質所得が増えていくこと、そのような期待が成立することが大事です。 人気blogランキングでは「社会科学」の番外でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング