法学と経済学の発想の差

大内伸也教授の『解雇改革』を読んでいる。 よく整理された内容で、私のような法律の門外漢にもわかりやすく書かれている。解雇規制の歴史と現状、さまざまな解雇規制、経済学の立場からの評価、各国の法制などの説明は明晰であるとおもう。私にはアメリカの法制が、英国のものとも違う特殊なものであるとの説明が新鮮であった。ご提案の解雇改革に賛成の方も反対の方にもお勧めできる内容だと思う。特に、解雇の自由化、解雇規制の緩和を主張されている方々には、ぜひ読んでほしい。 なお、大内教授ご自身による解説(?)は「こちら」 本筋とは言えないかもしれないが、私が法学的発想と経済学的発想の差を感じた部分があった。印象的なので、紹介したい。次の部分である。 希望退職募集を従業員一般に実施すると、企業が必要とする優秀な人材だけが流出してしまうおそれがある。そうした人材は、他社に再就職できる可能性が高いので、退職金の割り増しなどの経済的インセンティブがあると、退職を躊躇しない。そのような事情を考慮すると、希望退職を募集しなければ解雇できないとするのは、企業にいささか酷であろう。(pp.132-133) 法学的発想であれば、潜在的な裁判の当事者の利害・立場に目が向くのは自然だろうと思う。しかし、社会全体を考えると、また別な考え方もあるだろう。私ならば、この文章に続けて次のように書いてしまうと思う。 しかし、再就職しやすいものが離職して新しい職場でこれまで以上に能力を発揮しするのであれば、社会的には望ましいし、そのような従業員が離職することにより、結果として再就職しにくい従業員の雇用が維持されるなら、そのほうがさらに望ましい。希望退職を募集した結果、残っているのがそれほど優秀ではない従業員だけになってしまうと経営を続けるのは大変かもしれないが、企業(経営者)として努力をしてもらうべきだろう。もちろん、残った従業員も努力すべきことは言うまでもない。 別にどちらの発想が正しいというわけではないと思うし、経済学的発想のほうが優位にあると主張するつもりはさらさらない。発想の差というものはあるのだなと思ったことを記録しておきたい。 人気blogランキングでは「社会科学」の18位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング