政治思想の対立軸を考える。その2

政治思想の対立軸を考える。その1」で考えた三つの政治勢力が、それぞれその思想で統一された有力な政党を持てるかを考えてみました。 日本では結社の自由が権利として保障されていますので、政党を作ることはいつでも可能です。しかし、政治思想に基づいた政策を実現するためには、あるいはそれに反する政策を阻止するためには、国会である程度の議席を持つ必要があります。それができないなら政党を作る実質的な意味がなく、政党に参加して活動する人が集まらなくなります。 すると、問題は三つの政治勢力が国会にある程度の議席を持てるかどうか次第ということになります。これは、基本的には選挙制度に左右されます。 三党鼎立が一番成立しやすいのは比例代表制でしょう。 次に、鼎立の可能性が高いのは、中選挙区制でしょう。かつての中選挙区制の時代には自民、社会、民社、公明、共産の5党がそれなりの議席を持っていました。もっとも、この場合、一つの政治勢力が、外交方針など第三の軸(あるいは、人脈など)に基づいて二つに分かれるということもあり得ますので、4党以上になることもあるでしょう。 問題は小選挙区制です。私は、かつては、小選挙区制だと一番弱い政党は議席をとれなかったり、議席をとるためには有権者の中間層に近い政策をとらざるを得なくなるので二大政党に近づくと考えていました。どうも、これは間違いのようです。 大阪市立大学砂原庸介准教授によると、小選挙区制のもとで二大政党に収れんするというのは経験的に正しくないそうです。確かに選挙区ごとに見ると候補者は二つの政党から出ることになるのですが、選挙区によってその組み合わせが変わることはあり得るのだそうです。地方分権が進展していると、「地域ごとの政治的な対立軸に応じて国政での政党が多いことが具体的にも示されている。」そうです。(「大阪―大都市は国家を超えるか」pp.179-180 中央公論新社 中公新書2191) また、私が思うに、この三つの勢力がそれぞれある地域では有力ということになれば、小選挙区制の下でも三党鼎立はあり得るのでしょう。たとえば都市化があまり進んでいない古いタイプの共同体が残っている地域では政治勢力Tが、市場経済のもとで有利な生活を送っている人が多い地域では政治勢力Vが、都市化地域であまり恵まれない人が多い地域では政治勢力Sが、各々有力というようなケースです。 ついでですが、砂原准教授のご説明に従えば、政権交代可能な二大政党制を目指して小選挙区制を作っておきながら、地方分権を進めるというのは、いささか矛盾していることになります。もし、国は外交と安全保障だけ、内政はすべて地方という極端な形になれば、地方の選挙と国政選挙では、全く対立軸が別なものになります。国政での対立軸が一つだけになれば、二大政党制ということになるかもしれません。しかし、現実的ではないでしょう。 なお、砂原先生の本の一部をつまみ食いしてしまいましたが、非常に面白い本であると思います。私が紹介するよりもご本人による紹介のほうがいいでしょう。「こちら」をご覧ください。 (続く) 人気blogランキングでは「社会科学」の34位でした。↓クリックをお願いします。 人気blogランキング