続小野理論 その2
「続小野理論 その1」の続きです。今回は、小野モデルで使われている仮定のまとめです。定義については、次回。
Ⅱ 小野モデルの仮定と定義
1 特徴的な仮定
不況均衡が存在しえるのは、次の特徴的な仮定からである。
(特長的な仮定1)
代表的な家計は各期間において消費と流動性から効用を得る。二つの効用は全く別のものである。流動性が存在することによって、取引をするために必要な財やサービスが節約でき、消費を増やせるから、流動性が効用を生むのではない。流動性には固有の効用が存在する。
ただし、流動性は、いつか消費財に転換されることが想定されている。貨幣(国の債務)の山に囲まれて、それを見ながら、あるいは数えながら死ぬのが幸せという、本当の意味での守銭奴は想定されていない。(守銭奴が数多くいると政府の財政制約は緩和されるのではなかろうか。)
(注)これは、流動性からも効用を得るということと、横断性条件(異時点間の)が普通のモデルと同じという点とも関連しているように思う。家計が無限の将来において保有する流動性の割引現在価値が正になるというのは、流動性が効用をもたらさない場合には、非合理的であるが、効用をもたらす場合にも非合理的なのか、まだ私の能力不足でよく分からない。
(特徴的な仮定2)
代表的家計は、消費、貯蓄の決定にあたって、今期の消費、流動性と次期の消費から得られる効用の割引現在価値を最大化する。家計は動学的な意思決定を行っている。小野モデルはミクロ的な基礎づけを持つマクロモデルである。
(特徴的な仮定3) 流動性がもたらす効用は流動性の増加とともに逓減するが、下限が存在する。これがこれまでの理論との大きな差であり、不況均衡が存在する必要条件である。(ただし、十分条件ではない。)
このモデルでの他の仮定
(仮定1)企業が発行する株式(正確には収益性の証券であるが、簡単化のため株式とする。)はすべて家計によって所有されている。したがって、企業の価値とその増加分、これにはキャピタルゲインも含まれる、は家計に帰属する。
(仮定2)企業の生産に必要な生産要素は労働だけである。資本は必要ないので、資本の減耗も実物投資も存在しない。したがって、投資の判断から、経済が流動性の罠に陥ることはない。また、生産されるのは、すべて消費財であると考えてもよい。動学的最適化に当たって実物資本蓄積を考慮する必要はない。→企業のバランスシートはどうなるだろうか?
(仮定3)家計は、実物資産(消費財)を保有して時期に持ち越すことはない。あるいは、この経済には耐久性のある財は存在しない。動学的最適化の手段としては、貨幣、株式を所有して、それを次期に売却して、その時生産される消費財を購入するという方法しかない。やや、違和感があるかもしれないが、消費の量が一定になる定常状態の分析では、特に問題はない仮定であろう。これは簡単化のための仮定であり、企業が投資を行う場合は、別途第9章で分析される。
(仮定4)経済には、実物でありフローである財、労働と名目で表されるストックである貨幣、株式(収益資産)があり、各々が市場で取引されている。つまり、財市場、労働市場、貨幣市場、株式(収益証券)市場が存在する。
(仮定5)貨幣市場は、調整速度が速く、常に需給が均衡する。株式(収益資産)も同じである。要するに金融資
産の市場は、調整速度が速く、常に需給が均衡する。これに対して、労働市場は調整速度が遅く、不均衡の状態、つまり不本意な失業が存在しえる。このモデルでは、調整速度の差が均衡、不均衡を決める。
(仮定6)家計は実質賃金に関わらず一定の労働供給を行う。これは簡単化のための仮定であり、実質賃金により、労働供給が変わる場合は、別途第8章で分析される。
(仮定7)貨幣は流動性だけを、株式は収益性だけを生み出す。
(仮定8)貨幣と株式の安全性に差はない。リスクはなく、リスクプレミアムは存在しない。
(仮定9)生産技術は一定であり、技術進歩は存在しない。
(仮定10)労働の限界生産力は逓減する。
(仮定11)名目貨幣供給は外生的に決まる。貨幣発行主体のバランスシート、損益計算書はどうなるのかが、残念ながら、まだ理解できていない。
(仮定12)定常状態での時間選好率は、消費水準にかかわらず一定。
(仮定13)企業の利益はすべて家計に分配される。
(仮定14)消費水準ゼロの時の消費の限界効用は無限大である。
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