「リスクフリー」とは何か?

リスクフリーのない時代のリスクプレミアム」で厭債害債さんが次のように書かれている。

さまざまなファイナンスの教科書類においてもまだリスクフリーレートは国債利回りを使うと書かれているのが多いと思われる。

しかしながら現実には既に米国がS&Pに格下げをくらい、日本国債もR&Iまでもが格下げし、いわんや欧州においてはドイツ以外がボロボロになっている中で、「国債」利回りはもはや「リスクフリー」とはいえないのではないか、という話が出ている。とりわけ、AAA格の国が数少なくなって(もしかしたらそのうちなくなって)しまうと、「リスクフリー」はさすがに概念的にも苦しくなってくるだろう(AA格であること自体「リスクフリー」という言葉と矛盾すると思う。)

 リスクフリーはリスクの範囲をどうとらえるかによっておのずから変わる概念であると思う。そして、リスクをどのような範囲でとらえるかは、それぞれの立場で決まる。

 たとえば、厭債害債さんの取り上げてられる国債はおそらく長期国債であろうと思うので、これを例にとって考えてみる。

 自国通貨建ての国債であれば、基本的にはクレジットリスクはないと考えていいだろう。中央銀行がある限り、そこに引き受けさせて、元利の支払いを行うと考えられるからである。この奥の手、あるいは禁じ手がないユーロ諸国の国債は確実にクレジットリスクを伴う。開発途上国国債よりも不安定である。

 もし、10年後に政府に税金を支払わなければならず、その時の支払いまで手元資金を運用しておくという立場の投資家であれば、10年物国債はリスクフリーである。

 しかし、単純に10年間資金を運用するという立場であれば、話は変わる。たとえ元利をきちんと払ってくれたとしても、市場の金利の変動に応じて国債価格は変動する(会計上、時価評価が要求されていなくても、換金の必要性が生じれば、売買損益の形で表面化する。)。このような場合クレジットリスクフリーであっても、市場金利変動リスクフリーとは言えない。

 また、先ほどのような自国通貨建て国債も、物価変動により実質価値が既存されてしまう危険がある。これを物価変動リスクと呼ぶなら、これについてリスクフリーの資産は限らられている。

 クレジットリスク、金利変動リスク、物価変動リスクの少ない資産といえば超短期の国債か、自国通貨建ての物価連動国債ぐらいしかないのではなかろうか。もっとも、これでも外国の投資家にとっては為替変動リスクがあるのだが、これは先物か何かでヘッジするとして。

 こう考えると、本当にリスクフリーの資産というのは、概念上でだけしか存在しないのではないか?物価の変動リスクを無視すれば、自国通貨が候補になるが。

 しかし、これでは、厭債害債三の提起されている「最近リスク性資産とりわけ株式が不安定な動きをするのは、こうしたリスクフリーという座標軸を市場が見失いつつある結果として、必要とされる資本コストなどの計算ができず水準感が見失われていることも関係しているのかもしれない。そして人々がそれゆえに「リスクオン」「リスクオフ」といったデジタルな動きに支配されてしまっているのかもしれないなあ、などと漠然と思ってみたりする。これからファイナンスの授業ってどうやっていくんだろうか?」という問題の答えにはならないのでしょうね?

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