小野理論

(追記あり。修正あり。)

小野善康『成熟社会の経済学』の紹介 その3」で小島寛之先生が次のように書かれている。

(引用開始)

 蛇足になるが、ほとんどの読者にはどうでもいい専門的な話を一つつけ加えて終わりにする。最近ちょっと目にした小野理論に関するコメントで、「労働市場で超過供給があると、その分、貨幣市場で超過需要がある」というふうに小野さんの理論を理解しているものがあって、素人なら仕方ないが、発言しているのがれっきとしたマクロ経済学者だったのでびっくりした。このマクロ経済学者は、まさか小野さんの理論を読みもしないで論じているのだろうか。

 一応ぼくの理解を書いておこう。小野さんのモデルでは、財市場も貨幣市場もちゃんと需給が一致しているのである。なのに、労働市場だけが超過供給になっている。しかも、時点時点で物価と利子率がきちんと決まっているからみごとなのである。こういう芸当は、ケインズにもできなかった。(ケインズのモデルでも、財市場も貨幣市場も需給が一致し、労働市場だけが均衡していないが、そのための調整弁を利子率に求めるしかなく、物価を決めることができていない)。小野さんのモデルでこれが可能なのは、動学(時間を通じた経済)を描いているからに他ならない。小野さんのモデルでは、労働市場の超過供給(=失業)の凹みの分が、「蓄積される予定だった金融資産が思った通り蓄積されなかった」という形で物価の変化を通じて現れる。要するに、「(国民全体として)予定していたより資産の上で貧乏になった」ということが失業の存在の帰結、ということだ。これは、現実とつきあわせると全くなるほどである。これがまさに「通時的なワルラス法則」と呼ばれるべき法則なのだ。(ちゃんと理解したい人は、小野『金融』を読もう。時間微分がわかっていれば理解できる。ストックを時間微分したものがフローだから)。

(引用終わり)

私は『金融』を、まだ5章までしか読んでいないので、間違っているかもしれないのだが、小島さんの説明も少し誤解を生むのではないだろうか?

まず、小島さんの説明だと小野モデルには、財市場、貨幣市場、労働市場しかないように読めてしまう。実際には収益資産市場もある。

したがって、「財市場も貨幣市場もちゃんと需給が一致しているのである。なのに、労働市場だけが超過供給になっている。」という表現も誤解を生みやすく、正確には、「慢性的不況とは「財市場も貨幣市場もちゃんと需給が一致して」おり、「そして、労働市場だけが超過供給」に、収益資産市場だけが需要超過になっている」状態である」としたほうがいいのではないだろうか?

もし、上の理解が正しければ、「労働市場の超過供給(=失業)の凹みの分が、『蓄積される予定だった金融資産が思った通り蓄積されなかった』という形で物価の変化を通じて現れる。要するに、「(国民全体として)予定していたより資産の上で貧乏になった」ということが失業の存在の帰結、ということだ。」というのは、貨幣市場が均衡していることを前提にすれば、「労働市場の超過供給(=失業)の凹みの分が、『蓄積される予定だった収益資産が思った通り蓄積されなかった」という形で物価の変化を通じて現れる。要するに、「(国民全体として)予定していたより資産の上で貧乏になった」ということが失業の存在の帰結、ということだ。」となる。この場合、最適な異時点間の効用最大化もできなかったことになる。

小野理論では収益資産の需要は、家計の異時点間の効用最大化行動に基づくものなので、「『通時的なワルラス法則』と呼ばれるべき法則」といっても問題はないが、これだと通常の一時点におけるワルラス法則が成立していないという誤解を生むような気がする。

小泉進、建元正弘の『所得分析』(岩波書店 1972年)に、4市場のモデルで3市場の超過需要の合計が恒等的にゼロとなるというセイ法則が成立するためには、一つの市場が常に均衡していることを仮定しなければならないという記述がある。上の議論はこれを参考に考えた結果である。

私の誤解であれば、小島先生と小野先生にお詫びする。

(4月28日追記) 上の解釈について、小島寛之先生から、間違っているというご指導を頂いた。ご関心の向きは、

冒頭に引いた先生のブログの末尾をお読みください。なぜ間違っているかについて、追記して下さっている。確かに、間違っているような気がする。ご指導を手掛かりに、再度、考えてみたい。なお、私は、小野理論について勉強中であり、このブログは勉強途中の人間の試行錯誤のレポートであると思って読んでいただきたい。つまり、思考が錯誤sている、間違っている可能性が高いということである。間違いを指摘していただいた小島先生にお礼を申し上げる。他の方も、遠慮なく、間違いを指摘していただきたいと思う。

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