日本的雇用慣行の評判が悪いようで。
労務屋さんが「
こんなこと」を書かれています。
かつては優れたシステムとして評価されていた「日本的雇用慣行」ですが、最近ではいささか旗色が悪いようです。過労死やワーキングプア、ワークライフバランスなどといった問題に関して「長期雇用、職能給、企業別労組といった日本の雇用慣行に根本的な問題がある。職種別労働市場、職務給、職種別労組へと抜本的な改革が必要だ」といった主張が、不思議なことに自由主義者からも社民主義者からも聞こえてきます。前者が米国やカナダなど、後者が北欧や大陸欧州などという違いはありますが、日本のあり方を否定して海外に範をとろうという発想も共通しています。
このような主張はスマートでカッコいいものではありますが、しかし米国と北欧では労働市場、人事管理、法制度には大きな違いがあります。もちろん日本のそれらも、両者とは相当異なっています。どれがいいのか、を考える前に、どうしてこうも違うのだろうか、を考えてみなければならないでしょう。各国とも、それぞれに経緯があり、長い時間の中で現在のような形ができあがってきました。つまり、歴史を知ることが非常に大切です。
基本的には労務屋さんに賛成です。これに加えて海外に範をとろうとする方々に言いたいことがあります。
確かに、格差や不平等・不公平という面があるのかもしれません。正社員が企業に過度のコミットメントをしてしまう傾向もあるでしょう。しかし、みなさん忘れていませんか。雇用の安定という点では、圧倒的に優位です。
よく、解雇が自由で
労働市場で柔軟な調整が行われるといわれる
アングロサクソンと日本を比較してみましょう。
リーマンショックという激震の前後を比較してみます。
失業率(%)国 | 2006年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 |
---|
日本 | 4.1 | 3.9 | 4.0 | 5.1 | |
アメリカ | 4.6 | 4.6 | 5.8 | 9.3 | 9.6 |
差 | 0.5 | 0.7 | 1.8 | 4.2 | |
イギリス | 5.4 | 5.3 | 5.7 | 7.7 | |
差 | 1.3 | 1.4 | 1.7 | 2.6 | |
(2011年1月10日)アメリカの20010年の失業率を追加しました。
この間、日本の失業率がアメリカ、イギリスを上回ったことは一度もありません。
リーマンショック前の2007年と後の2009年を比較してみると、失業率の上昇幅は、
日本 +1.2ポイント
アメリカ +4.7ポイント
イギリス +2.4ポイント
です。2010年になっても大きな変化はありません。
では、大陸ヨーロッパと比べるとどうか?
失業率(%)国 | 2006年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 |
日本 | 4.1 | 3.9 | 4.0 | 5.1 | |
イタリア | 6.8 | 6.0 | 6.1 | 7.8 | |
差 | 2.2 | 2.2 | 2.7 | 2.7 | |
フランス | 8.8 | 8.0 | 7.4 | 9.1 | |
差 | 4.2 | 4.1 | 3.4 | 4.0 | |
ドイツ | 9.8 | 8.4 | 7.3 | 7.5 | |
差 | 4.7 | 4.1 | 3.4 | 2.4 | |
どの時期をとっても失業率が日本より低い国はありません。
2007年から2009年までの失業率の上昇幅は、
日本 +1.2ポイント
イタリア +1.8ポイント
フランス +1.1ポイント
ドイツ -0.9ポイント
です。ドイツの低下(そしてフランスがそれほど悪化していないこと)には
「
『ユーロ氏の肝臓病』について」で書いた事情があります。雇用システムが優れているからではありません。
確かに日本の失業率も高くなっています。年の瀬に失業している人は大変でしょう。しかし、失業という点について言えば、ほかの国はもっと厳しいのです。
セーフティネットに差がありますから失業しているときの生活がどちらが厳しいかはよくわかりません。
日本の失業率の上昇の原因は先進国と共通でしょう。日本的雇用慣行だから失業率が高くなったのではありません。日本的雇用慣行を変えることによって、失業率が低くなるとは思えません。
この様な長所を殺すことなく、どう改善していくかが来年以降の課題です。
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