子ども手当と保育所整備

子ども手当の本質的な政策目的」で書いたように、私は「子ども手当の本質的な目的は、子どもを育てている家庭の経済的厚生を絶対的にも相対的にも高める」ことだと思っています。この目的は子ども手当を導入すれば必ず達成できます。

しかし、少子化対策として子ども手当を考えることができないわけではありません。子ども手当を払えば子育ての費用を子ども手当で支払うことができますから、子どもを持とうという意欲は高まるでしょう。保育所を整備すると子どもを預けて働きに出て、その給料で子育て費用を賄うことができるようになります。やはり、少子化対策としての効果を持つでしょう。

では、同じ金額を子ども手当に使うのがいいのか、保育所整備に使うのがいいのかという議論がおこなわれています。女性の社会進出を進める立場の方は、保育所整備を求める傾向があるようです。これはこれで意味がありますし、面白いテーマですが、私が重要だと思うのに、あまり議論されていない問題があります。

それは子ども手当保育所整備が労働市場には全く別の効果を持つという問題です。

まず、子供手当のほうから検討します。子どものいる世帯に子ども手当が支給されると、労働市場に出て働かなくても所得を得ることになります。もし、この手当を全額消費するか、将来必要になる子供の費用などに使いたいと思えば、今まで通り働くことになります。労働市場には直接の影響は出ません。しかし、中には子ども手当がもらえるなら、働く時間を減らして、家事、育児の時間を増やしたい、あるいは少しはゆっくりしたいと考える方、特にお母さんたちもいるはずです。経済学的な表現をすると、余暇は正常財なので所得が増えるにつれて余暇を選ぶということです。逆に子供手当がもらえるようになったから、今まで以上に働くという方はいないでしょう。全体としてみれば労働市場での供給は減ります。

一方、保育所の整備は、全く別の効果をもたらします。これまで働きに出て給料を得ても、子供を預ける費用のほうが高くつくので、働かなかった人が、給料が変わらなくても子どもを預ける費用が減るので、働きに出ることになります。労働供給は増えます。

さて、このように子ども手当の有無により、労働供給を変えるのは、多くは女性で、その中には配偶者のいるパートが多いと考えられます。すると、非正規の労働市場に与える効果が大きいということになります。

子ども手当の場合、非正規労働市場への労働供給は減少し、二つの変化が現れます。一つは賃金の上昇です。もうひとつの効果は非正規労働市場で働きたいのに雇ってもらえなかった方、あるいは労働時間をもっと増やしたいのに短い時間しか働けなかった方が雇われたり、労働時間を増やせたりすることです。

保育所整備の効果は異なります。非正規労働市場への労働供給は増加し、やはり二つの変化が現れます。一つは賃金の下落です。もうひとつの効果は非正規労働市場での働き口確保競争が厳しくなり、雇ってもらえないひとが増えるでしょう。特に何か事情があって競争力のない人が職を失う可能性が高くなります。

なお、保育所整備によりフルタイムで働き続けるお母さんが増えることも予想されます。この場合、フルタイムの新規採用が減少するでしょう。そして、フルタイムで中途採用されたい失業者や、新規学卒者が打撃を受けます。

ついでですが、これまで保育所に預けていた方が、子ども手当をもらうことになったので働くのをやめるということになれば、保育所への入所希望が満たされる可能性が高まります。

もし、保育所を整備するのであれば、増加する労働供給を吸収できるだけ労働需要を増やすことが必要だと、私は考えています。

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