アメリカ国債消化の主役交代

3月までのアメリカ国債金利安定の理由」で、次のように書きました。

「通貨当局が外国中央銀行に貸していたドルを2,373億ドル回収して、家計から不動産担保の債権を証券化した債券(Agency-and Government-Sponsored-Enterprises-backed securities)買い、家計がその代金で国債を買って、国債を消化する。」という想像もできないような取引が行われていたことになります。これで、国債が消化され3月までは国債金利が安定していたわけです。あまり、長続きしそうにないフローです。

4-6月期にはこの構造は崩れています。

通貨当局(Monetary Authority)は、引き続き外国中央銀行に貸していたドルを回収しています。1-3月期は2,373憶ドルでしたが、4-6月期は1,695億ドルでした。そして家計は不動産担保の債権を証券化した債券を売り続けています。残高は3,101億ドル減少しています。家計の保有額は、1,295億ドルにまで減りました。通貨当局は、やはりこれを買い続けています。残高は、2,721億ドル増えて5,591億ドルに達しています。家計が売った分のほとんどを通貨当局が購入した形です。ここまでは1-3月期と同じです。

しかし、4-6月期家計は国債を購入しませんでした。1-3月期は5,524億ドル残高が増えたのですが、4-6月期はわずか295億ドルです。

4-6月期の国債(Treasury securities)残高の増加額は、3,387憶ドルです。(1-3月期の4,662億ドルからは1,000億ドル以上減っています。)家計がほとんど買ってくれなかったため、他の買い手が必要です。外国もあまり買いませんでした。1-3月期には残高は1,721億ドル増えていたのですが、今回は1,007億ドルです。アメリカの貿易収支が好転しているので、当たり前といえば当たり前です。

では、誰が買ったかといえば通貨当局です。1-3月期はわずか164億ドルの増加でしたが、4-6月期はその10倍、1,642億ドルも増えています。

アメリカ国債消化の主役は家計から通貨当局に劇的に変化しました。

さて、通貨当局(Monetary Authority)が資産担保の証券を買い、国債も買ったのだとすると、通貨当局の資産は増加し、その見合いで負債、つまりマネーもも増加したのでしょうか?つまり国債を購入するために通貨を発行したのでしょうか?もしそうならマネタイゼーションが始まったことになります。

実際には、通貨当局の金融資産総額は増えていません。587億ドル減っています。負債も591億ドル減っています。

国債(Treasury securities)の増加が1,642億ドル、

不動産担保の債権を証券化した債券(Agency-and Government-Sponsored-Enterprises-backed securities)の増加が2,721億ドルでしかも資産が増えていないということは、何らかの資産を減らしたということです。それは何でしょうか?

一つは外国中央銀行に貸していたドルの回収、1,695億ドルです。しかしこれでは足りません。

減ったのは次の二つです。

1 国内銀行への貸し出し 1,919億ドル減少

2 CPFF(Commercial Paper Funding Facility) 1,350億ドル減少

国内銀行への貸し出しは、リーマンショック以後急増していたものですし、CPFFはこのショック以後導入されたものです。金融市場正常化に伴い、これらの資産が減るのは当然であり、望ましいことでもあります。

国債の消化という観点からは、次のように要約できるでしょう。

1 外国が100億ドル以上ネットで買った。

2 通貨当局が、金融市場正常化に伴い資金を回収し、外国通貨当局への貸し出しも回収し、その資金のかなりの部分を不動産担保の債権を証券化した債券(Agency-and Government-Sponsored-Enterprises-backed securities)の購入に充てたが、その残りで国債を買った。

今後の需給バランスということでいえば、次のような要因が重要です

まず、国債残高の増加を抑えることができるか?

☆外国が国債を買い続けるか?

★金融市場正常化に伴い通貨当局が、資金を回収できるか?(CPFFの残高は1,108億ドルです。)

外国通貨当局への貸し出しを回収できるか?(残高は1,146億ドルです。)

☆不動産担保の債権を証券化した債券(Agency-and Government-Sponsored-Enterprises-backed securities)の購入をやめて、国債購入額を増やせるか?

○商業銀行や家計が国債を買い始めるか?

★については限界があることは明らかです。他の要因がうまく働くかどうかに注目です。

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