社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その35

今回と次回は、「社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その34」に引き続いて、「2.4.8 バブルの経路」の説明です。 (赤字は指数です。) (2008年4月21日、大幅に改定しました。) 図2.12に、位相図がありますが、これを導き出します。 このためには位相図を区切る二つの線が必要です。一つはバブルである政府債券の価格(これは政府債券の量が1と決まっていますので、そのまま政府債券の時価総額です。)が一定に留まるΔP=0線です。図2.6にもΔP=0線がありましたが、こちらは実物資本1単位の価格が一定である線です。混同しないように注意してください。もう一つは、一人当たり実物資本が一定となるΔk=0線です。 1 ΔP=0線 この線を導く上でp>0の場合、p=0の場合に分けて考える必要があります。 まず、p>0の場合から始めます。ΔP=0線を導くために必要なのは、今期のバブルと次期のバブルの関係を示す(2.63)式です。この式を次のように導きます。 まず、「政府債券と市場利子率が裁定関係にあるとすると、」(2.62)式が成立します。この式はpt=0の時定義されませんが、いま、p≠0を仮定しているので、問題は生じません。(2.62)式を次のように変形しておきます。  pt+1=pt×(1+rt)・・・・・〔0〕  (2.55)式が実物資本の収益率を表しています。このモデルでは、労働市場に家計が1単位の労働を供給し、そしてそれが必ず需要されるという条件からl=1となります。これを(2.55)式に代入すると、 rt=αkt+1α-1-1 となり、 1+rt=αkt+1α-1・・・・・〔1〕 となります。 先ほどの(2.62)式を変形したものに〔1〕を代入すると(2.63)式が得られます。 次に、p=0の場合を検討します。この場合、(2.62)が定義されませんので、(2.62)式から〔0〕式を導くことはできません。ここで、前期のバブルが0であったときには、次期のバブルは0であると仮定します。つまり、ある時突然バブルが発生することはないという仮定です。 この仮定を置くと、〔0〕式はp=0の場合も成立します。ただし、これは(1+rt)の値の如何に関わらず成立します。経済学的に言うとバブルがなく政府債券に値が付いていないときは、実物資産と政府債券の間で裁定が働いていなくとも良いということです。 さて、このように仮定すると、(2.63)式もαkt+1α-1の値にかかわらず成立することになります。 このように、p>0の場合も、p=0の場合も、つまりpの値の如何に関わらず(2.63)式が成立します。この式は次期のバブルは今期のバブルのαkt+1α-1倍になるということを意味しています。 さて、この式を基礎にバブルが一定である条件、ΔP=0線を考えます。非常に面白い形になります。Tを逆さまにした様な形の線です。(2.63)式からpt+1=ptになる、つまりΔp=0となるのは二つの場合です。 第1に、pt=0のとき、αkt+1α-1がどのような値であれ、pt+1=0です。p―k平面ではx軸です。これは、経済学的には、バブルが発生していなければ、ずっとバブルは発生しないということを仮定をそのまま表現したものです。実物資産と政府債券の間で裁定が働いていません。 第2に、αkt+1α-1=1の時です。技術的な条件αを外生的に決まるものとすれば、このようになるのはkが特定の値を取るときです。従って、p―k平面では垂直線になります。この特定の値とは、(1/α)1/(α―1)、あるいは、α1/(1―α)です。先の〔1〕式から分かるとおり、αkt+1α-1=1とは、rt=0を意味します。そしてrt=0とは、資本減耗を差し引いた実物資産の収益率が0であると言うことです。これは実物資産の限界粗生産性が資本の減耗率に等しい、言い換えると実物資本の限界純生産性が0であると言うことです。これは黄金律の定義そのものです。このときの実物資本の水準、α1/(1―α)、は、黄金律の水準kgを示す(2.60)式と一致しています。確認してください。 まとめると、経済学的にはバブルが発生していないときと、資本が黄金律の水準にあるとき、バブルは成長せず、一定の値を取るのです。 さて、この垂直線上に経済がある場合、つまり資本が黄金律の水準にあるときには、バブルは変化しません。垂直線の右側で、黄金律の水準より実物資本が大きく、バブルが正である状態(*)に経済があるとしましょう。バブルはどのように変化するでしょうか? 基本になるのは pt+1=αkt-1α-1pt (2.63) です。今期のバブルptがある値pt*を取っているとします。今期の資本をkt*とします。来期のバブルはpt+1*です。 この二つから、 pt+1*=αkt*α-1pt*・・・〔ァ〕 がとなるpt+1を考えることができます。経済がΔp=0曲線上にないので、pt-1*≠pt*です。 経済がΔp=0曲線上にあったときのpt*に対応する資本はkgです。バブルは変化しませんからpt+1=pt*です。次の式が成立します。 pt*=αkgα-1pt*・・・〔イ〕 ここで、kt-1*α=ktqです。現実の資本kt*はkgよりも大きいので、kt*>kgです。 〔イ〕式から〔ア〕式を辺辺引くと、次のようになります。 pt+1-pt*=α{kg*α-1―kt*α-1}pt*         =α{(1/kg)*(1-α)―(1/kt)*(1-α)}pt*・・・〔ハ〕 ここで、0<kg*<kt*を考慮すると、(1/kg)>(1/kt)です。 さらにα>0、pt>0ですから pt+1<-pt*=pt・・・〔ニ〕 です。 この式は、経済がΔp=0曲線よりも右ニにあるとき、バブルが減少することを意味します。 逆に、経済がΔp=0曲線よりも左側にあるとき、バブルは増大します。 次回は、Δk=0線を検討します。 人気blogランキングでは「社会科学」の30位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング