社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その34

社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その33」で示した「簡単な世代重複モデル」を前提にすれば、競争市場のメカニズムで効率的な資源配分を達成できるとは限らず、過剰な資本の蓄積が行われるおそれがありました。どのようなシステムを外部から与えれば、動学的な効率性を達成し、過剰な資本の蓄積を回避できるのでしょうか?これを考えるのが「2.4.6 過剰資本を回避するためには」と「2.4.7 効率性を生み出すバブル」です。「2.4.7 効率性を生み出すバブル」を中心に考えます。 過剰な実物資本の蓄積が行われてしまう一つの原因は、実物資産による蓄積以外の方法がないことです。前回のモデルで言えば6の「貯蓄は実物投資に充てられ、減価償却後の投資の収益率はrt+1とします。」という部分です。これを改めて貯蓄が実物資本の蓄積だけではなく別なものに向かうようにしなければなりません。 普通、実物資産以外の貯蓄の方法といえば金融資産、つまり貸借です。しかし、異なる世代間で個人間の貸借取引ができないというのが、このOLSモデルの特徴です。そこで個人が借りてではない金融資産として「償還期限がなく、利払いもない」政府債券を導入します。この債券にはファンダメンタルズの基礎となる利子の支払いがありません。当然、ファンダメンタルな価値はなく、この債券に価格pがあるとすれば、それはバブルです。この債券の量は1単位だけとします。従ってこの債券の価格p=債権の総額pとなります。 なお、債券の価格を考えるためには、ニュメレールが必要です。このモデルには財は唯一つでそれ以外の資産はありません。したがって、ここでは実物資産(=生産された財)の価格がニュメレールです。つまり実物資産の価格は1です。 この債券は利払いがないのでその収益はキャピタルゲインだけです。その収益率は (pt+1-p)/pです。実物資産との裁定が働いているとすると、(2.26)式が成立しています。ただし、利子率を実物資産の償却後の収益率と読み替えてください。 さて、このような政府債券があると、技術的な条件がどのようなものであろうと黄金律で定常状態となることを示します。前回のモデルでは、特定の技術的条件出なければ黄金律で定常とならなかったのとは大きな違いです。ただし、この定常状態に向かって経済が振興するとは限りません。この問題は次回取り上げます。 さて、その経路は別として、経済が定常状態に達し、いま、経済が黄金律の水準で定常状態にあると仮定します。何か矛盾は生じるでしょうか。 黄金律で定常状態にあるとします。目的関数である効用関数(2.50)は根本的な仮定で、政府債券を導入しても何の変化も生じません。 では、個人の予算制約式(2.51)はどうでしょうか?これは実物資産と政府債券の間で裁定が行われているという前提で考え、両資産共通の収益率であると考えれば、変化はありません。 従って、個人の消費行動に変化はなく、賃金所得の半分が貯蓄されます。 では、賃金に変化があるかといえば、生産関数はものの関係ですから、これも政府債券導入の影響は受けません。従って、生産関数の制約の下での企業の利潤最大化行動から導かれる賃金の決定式、(2.54)も変化がありません。(実物資本の収益率を示す(2.55)にも変化はありません。) 労働市場の均衡条件、(2.56)にも変化はありません。変化が出るのは資本市場の需給均衡条件で、(2.57)で示される貯蓄=実物資産への投資(=実物資本のストック)戸はならず、 貯蓄=実物資産への投資(=実物資本のストック)プラス政府債券の購入額(=政府債券の価額) となります。資本は黄金律の水準にありますからs=kg+pです。kgは一定、sも一定ですから、pは一定でなければなりません。 黄金律の定義から、償却後の実物資本の収益率はゼロです。つまりr=0。これが同時に政府債券の収益率です。政府債券の収益はキャピタルゲインだけでしたから、収益率ゼロは、政府債券の価格一定を意味します。政府債券の収益率=価格の変化を示す(2.62)式のrをゼロとおいて下さい。pt+1=pとなります。 このように政府債券を導入すると、黄金律での定常に矛盾は生じません。 利子の支払われない政府債券を導入すると、成長しないバブルが存在し、技術水準が低くても、黄金律での定常状態が維持でき、動学的な非効率が改善できるのです。 しかし、このような定常状態が存在しえることと、経済が自然にそこへ向かうかということは別物です。次回はこのモデルの動学経路を考えます。実は、考えあぐねている部分があります。 人気blogランキングでは「社会科学」の44位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング