社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その28
「社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その27」の続きで、「2.3.4 リカードの中立命題と消費」の説明です。
リカードの中立命題は等価命題(equivalence theorem)とも呼ばれています。
次の条件の下では、t期の一人当たり政府支出(gt)が所与である場合それ
を税金でまかなうか、政府の借入でまかなうかは、t期の消費に影響を与えないという命題の説明です。
条件1 t期の消費は(2.38)式の消費関数で決まる。
条件2 政府も、横断条件と非ポンジー条件の制約がかかる。つまり、t-1期までの政府の負債とt期以降の政府支出の実質利子率による割引現在価値は、t期以降の税収の割引現在価値に等しい。
念のためですが、この条件1を導くためには、隣り合う二つの期の消費の関係を決めるオイラー方程式と代表的個人に対する横断条件と非ポンジー条件の制約があります。
第1段階としてt期の政府の予算制約を考えます。(すべて一人当たりの値です。)
t期初めの政府の負債をbtとします。t期の税収入をttとします。支出はgtです
。このほかに利子を支払わなければなりませんが、実質利子率をrtとすると利子の支払額はbt×rtです。税収入を支出が上回った赤字分は借入によらざるを得ません。赤字はgt+bt×rt-ttです。するとt期末の負債残高=t+1期初めの負債残高bt+1は、次のような式で表されます。
bt+1=bt+(gt+bt×rt-tt)
右辺をbtについて整理します。
bt+1=bt(1+rt)-tt+gt
ttを移項します。
bt+1+tt=bt(1+rt)+gt
左辺と右辺が入れ替わっていますが、これが(2.43)式です。
さて、この式を基に政府の無限の将来の負債残高を考えます。これは代表的個人について、(2.24)式で表される各期の資本残高の変化から無限の将来の資本残高((2.25)式)を求めたのと同じ計算をすればいいのです。
(2.24)式に形式面でも対応させると(2.43)の各項目はこのように対応しています。。
(2.24)式のa:(2.43)式のb
x-δ:r
w:g
c:t
したがって、(2.24)式から導かれる(2.25)式に対応する式は(2.44)式になります。
政府にも横断条件と非ポンジー条件の制約がかかるということは(2.44)式の左辺の第2項がゼロであるということです。これを考慮すると(2.45)式が導かれます。
さて、「現在までの政府の負債と将来の政府支出は、結局のところ将来の租税によってまかなわれる」場合に、消費はどうなるかを考えます。
租税が導入される前の代表的個人の0期の予算制約式は、(2.25)式の第3項をゼロとおいたものです。これからt期の予算制約式を求めるとこうなります。
at+1+Στ=t,∞{wτ/Πj=t、τ(1+rj)}=Στ=t,∞{cτ/Πj=t、τ(1+rj)}・・・(2)
税金を考慮すると、手持ちの資産と賃金収入から税金を差し引いたものの割引現在価値が消費の現在価値と等しいとしなければなりません。そのため(2)式のwをw-tに変えることになります。それが(2.46)式です。この式の左辺の第2項は賃金の部分と税の部分に分けることができます。するとこうなります。
at+1+Στ=t,∞{wτ/Πj=t、τ(1+rj)}-Στ=t,∞{tτ/Πj=t、τ(1+rj)}=Στ=t,∞{cτ/Πj=t、τ(1+rj)}・・・(3)
(3)式の左辺第3項は(2.45)式の左辺です。そこで、この項に(2.45)式を代入すると(2.47)式になります。
これから「家計の予算制約式には政府の租税スケジュールは影響を与えない」ことが分かります。
(注)私は第1刷を持っているのですが、「家計の予算制約式は政府の租税スケジュールには影響を与えない」となっています。多分、校正ミスです。
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