岩本先生が「
社会保障基金の財政収支が不思議な動き」(
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/1733167.html)こんなことを書いていらっしゃるのを読んで、調べてみました。
『国民経済計算』2006年度確報での社会保障基金の財政収支が不思議な動きをしている。フロー編・付表6では,財政収支の計数が,所得支出勘定・資本調達勘定から導かれる純貸出/純借入(項目26)と『資金循環統計』から推計される資金過不足(項目28)の2つ現れる。2006年度の計数は,項目26が-3819億円,項目28が-23兆310億円と,22.6兆円もの差異がある。
貯蓄-投資=金融資産の増加-金融負債の増加
の関係から,両者は概念的に同じものである。2つの推計方法での推計誤差が違うことで計数の差異が生じるが,これほど大きくなるのは尋常ではない。
少なくともどちらかの手法に巨大な推計誤差があることになる。現在のところ,原因がわからず調査中。(引用終わり)
社会保障基金の勘定に「その他の金融資産・負債」のうちの「預け金・預かり金」がありますが、このうち負債側の増加、つまり預かり金が異常に増えています。19兆2,605億円の増加です。資産として「預け金」が増えている主体があるかと見てみると、ほとんど変化なし。では、「預かり金」が減っている主体〔制度部門〕があるかと見てみると、これがありました。民間非金融法人企業です。18兆5,026億円の減少です。
これを普通に解釈すると、誰かがこれまで非金融法人企業に預けていたお金を引き上げて、
社会保障基金に預け変えたということになります。
ただ、預かり金というのは入居保証金や
信用取引の保証金のようなタイプのものですので、預金の預け変えのように単純な取引ではありません。
社会保障基金というのは、不動産業者ではありませんから入居保証金などをそんなに受け入れるというのは考えにくい。取引の保証金というのも妙です。
では、これまで民間非金融機関であったものが、資産、負債を
社会保障基金に引き継いだり、
社会保障基金化したりしたのでしょうか?私の知る限り、民営化に逆行するようなそんな制度改正はありません。
そこで、
社会保障基金の謎をさらに追究するため、SNA推計の基礎になっている
日本銀行の「資金循環統計」〔ここ(
http://www.boj.or.jp/theme/research/stat/sj/index.htm)から入れます。〕とSNAの「付表24 金融資産・負債の変動 (5)一般政府の内訳」(
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/h18-kaku/18s247_jp.xls)を比較してみました。いずれも2006年度のものです。その結果は次のとおりです。
社会保障基金の資産・負債の変動の大きなもの(兆円) | 項目 | 資金循環 | SNA | コメント |
---|
資産 | 財政融資資金預託金 | △15.5 | △15.6 | 一致 |
資産 | 国債・財融債13,777 | 6.3 | 6.3 | 一致 |
資産 | 事業債 | 1.1 | 1.1 | 一致 |
資産 | 預け金 | △1.8 | 0.4 | 逆の動き |
資産 | 未収金 | 0.5兆円 | 1.9兆円 | 乖離 |
資産 | 対外証券投資 | 0.6 | △2.6 | 逆の動き |
資産 | その他 | 0.7 | ゼロ | 乖離 |
資産 | 合計 | △7.7 | △7.6 | 一致 |
負債 | 公的金融機関借入金 | △3.8 | △3.7 | 一致 |
負債 | 預かり金 | ゼロ | 19.3 | 巨額の乖離 |
負債 | 資金過不足 | △3.9 | △23.0 | 巨額の乖離 |
負債 | 合計 | △7.7 | 15.4 | 巨額の乖離 |
資産の内訳には差がありながら、合計は一致しているのが気になります。しかし、決定的なのは預かり金の差です。通常、これほどの差が出るような性質の項目ではありません。
SNAのストック編も公開されましたが、やはりこの項目で巨額の乖離が生じています。
これは、SNAの「どちらかの手法に巨大な推計誤差がある」とすれば、資金循環統計の推計でしょうが、推計誤差ではなく単なる事故かも知れないという気がします。
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