社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その21

新年、明けましておめでとうございます。いろいろなことが起こりそうな2008年ですが、いつもどおり、記事を書いていこうと思っています。気づかなかったのですが、昨年のうちにページヴューが20万を超えていました。お読みいただきありがとうございました。今年もよろしくお願いします。

社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その20」の続きです。今回から「2.2.10 鞍点経路と動学的な効率性」に入ります。

ここでは、経済の初期状態について三つのケースを考えています。実際には4番目のケースが存在し得ます。いずれのケースも期初の(一人当たり)資本はk0の水準にあるとされています。k0は修正された黄金率の水準km以外であればどこでもよく、任意の水準でかまいません。経済が最初からkmにあると、最初から定常状態になりますので、これは排除されています。資本水準k0に対して、図2.5の場合はさまざまな(一人当たり)消費水準が、図2.6の場合にはさまざまな資産価格の水準が対応しています。

三つのケースを分ける基準となるのは、自然に定常状態に到達する経路の上にある点Aです。k0とある消費水準、資産価格の水準で示される点です。

もうひとつは図2.5ではAより上にあり(つまり消費水準の高い)、図2.6ではAより下にある(つまり資産価格の低い)部分の一部です。これをテキストでは点Bで代表させています。この点Bは資本kが一定となる△k=0線の下にあることが仮定されています。さらに消費水準が高く、資産価格が低い場合が、先に述べた4番目のケースですが、これは、Bのケースを検討していくうちに、どのような経路をたどるかが分かります。

最後は、点Bの逆のケースです。図2.5ではAより下にあり(つまり消費水準の低い)、図2.6ではAより上にある(つまり資産価格の高い)部分です。これをテキストでは点Cで代表させています。自明ですが、消費はいくら低くても負にはならないと仮定されています。

また、すべての場合に資産価格p0はゼロや負ではない(非負)と仮定されています。

結論を先取りすると、第一のケースだけが横断条件を満たし、他のケースは横断条件を満たしません。つまり、第一のケースだけが経済合理性を持ち、他のケースは経済合理性を持ちません。したがって、経済主体が合理的である限り、他のケースのような事態は起こりえません。現実に起こりえるのは点Aから出発する場合だけです。

これが、第1章で書かれていた「標準的なモデルの想定では、経済が行き着く先の定常状態はたった一つしかなく、定常状態にたどり着く経路も一通りしかない。いくつかの進行経路のうちのひとつを経済が選択するような余地はまったくない。唯一決められた経路から外れて経済が進行していれば、ミクロ経済学的な合理性が満たされていないことになる。」ということの意味です。

以下ケースごとに説明していきます。

第一のケース:点Aから出発

このケースでは、経済は仮定により定常状態Sに達します。この経路を鞍点経路(saddle path)と呼びます。定常状態では、資本k、価格p、消費cが一定です。資本市場で需給が均衡しているという条件((2.29)式)の下では、資本kが一定であることは家計の持つ資本aが一定であるということです。すると、消費者が合理的であるための条件である横断条件(2.28)式は満たされます。というのは、分子Ptatは一定です。一方、効用の割引率ρが正であるという仮定の下では、極限では分母は無限大になるからです。なお、ここでは資産価格非負であるという条件が働いています。

後のケースは次回説明します。

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