派遣労働者、請負労働者の使用者

「派遣労働者は直接雇用のプールだろうか?」について」に、濱口先生から、再び、丁寧なご回答をいただきました。「「平家さんへの再答弁」」というエントリーです。以下引用はこの濱口先生のエントリーからです。

「事前面接の有無で事後的に使用者責任の有無が決まるようなイメージで理解されたようです。」

そう理解していました。しかし、次のように書かれているのを読み、そうではないことが分かりました。

「最終的には裁判所で事前面接の有無について事実問題として決着がつかない限り使用者責任の帰趨が判らないというのでは、これは法的安定性を害します。

予め、派遣を類型化し、事前面接ありで使用者責任を原則的に負うべきものと、そうでないものに分けて、反証されない限り、そういう契約であったと推定されるような仕組みにしておく必要があるでしょう。」

法的安定性が必要である点については賛成です。従って、類型化しておくということにも賛成です。こういう「法的安定性」という発想は、私にはないものなので、非常に啓発されました。

さて、こうなると、具体的な類型化のしかたが問題になります。浜口先生のご提案はこうです。

「大きく分類すれば、技術系に多いいわゆる常用型派遣の場合は、その派遣会社の正社員であるわけですから、その会社の技術水準を信頼して派遣を受け入れているものと考えて、事前面接なしで派遣先に使用者責任なしとし、事務系に多いいわゆる通常の登録型派遣の場合は、派遣の依頼を受けてからそれに合わせて派遣元が雇い入れるわけですから、その人に着目しているものと考えて、事前面接ありで派遣先にも使用者責任ありとするのが、すっきりするように思われます。」

常用型についてはとりあえず反対しません。ですが、登録型派遣の場合はすべて「派遣の依頼を受けてからそれに合わせて派遣元が雇い入れるわけですから、その人に着目しているものと考え」られるかという問題が残ります。あるいは「その人に着目している」ということの意味合いの問題です。

例えば、ある比較的単純な仕事や、事務機器の操作など、職場の他の労働者との共同作業があまりないような仕事をしてくれればいいのであって、「その人に着目してはいても」、その人のごく限られた側面だけが関心事、着目点であるという場合があります。ちょっといい言葉が思いつかないのですが、総合的な人格などは気にしない、着目していないという場合もあります。派遣元の都合で労働者を入れ替えてもらっても、派遣先としては一向に構わないといケースです。この場合は原則、事前面接なしということになります。このようなケースを考えると登録型といえども、事前面接なしになりますし、事前を使用者責任有無の基準とすると、派遣先には原則として使用者責任なしということになります。このようなタイプの類型化を認めない妥当な理由はあるでしょうか。

「問題は日雇い派遣をどう位置づけるべきかなんですね。」と書かれているので、おそらく、この問題は濱口先生も潜在的には意識されている。しかし、これは必ずしも日雇い派遣でなくとも、週雇い派遣でも、旬雇い派遣でも、月雇い派遣でもあり得る話です。

濱口先生は、「私は、登録型派遣というのは使用者責任アウトソーシング業であると捉えて、その限界をきちんと定めておくという風に考えればいいのではないかと思っています。」とのご意見ですが、私は、これとは少し違うことを考えています。

まだ、頭が整理し切れていないのですが、派遣業も労務供給業も使用者業務の代理業であると捉えて、使用者業務の代理は認めるけれども、使用者責任の回避は認めないというのが基本的なアイディアです。こんなシステムを考えています。

1 原則として派遣先、発注者が使用者責任を負う。

2 ただし、派遣元、労務供給業者(代理業者)が使用者責任を果たす限りにおいて派遣先、発注元は使用者責任を免除される。

この仕組みの下では、代理業者との契約で代理業者が担うこととされた使用者責任を代理業者が果たさなければ、派遣先、発注者が労働者に対して使用者の義務を果たした上で、代理業者に求償することになるでしょう。

このシステムの下では、派遣先、発注者は悪質な派遣元、労務供給業者を使うことをちゅうちょすることになります。市場の力によって悪質な派遣元、労務供給業者は淘汰されていくはずです。

派遣や労務供給(的請負)の本質的な問題は使用者責任の曖昧さにあります。原則として派遣先、発注者が使用者責任を負うのであれば、派遣労働者を事前面接しても、供給された労働者を直接指揮しても問題は生じません。派遣、偽装請負にまつわる実務上の問題は解決できます。

(注)おそらく、発注先の指揮が原因となって労働災害などの問題が起これば、自前の契約にかかわらず労務供給業者はその責任を負わず、発注者が責任を負うことになるでしょう。

もちろん、企業には使用者責任を曖昧にしたい、回避したいという欲望があるでしょう。従って、このような法制の導入には大きな抵抗が予想されます。しかし、このような勝手な欲望を認めるべきではありません。

一方、業務を専門家に任せることによってコストを削減したいというのは、あえて否定する必要はないと思います。業務の代理に強い規制、極端な場合には一切禁止、をかける必要はありません。

まだ、考えの足りないところがあると思います。皆さんのご批判をお待ちします。

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