社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その18
「社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その17」で唯一つ交点があることの説明をしました。
もし、経済がこの交点にあれば、(一人当たり)資本、(一人当たり)消費、財価格は変化しません。定常状態です。ミクロ静学で需要量、供給量がつりあい価格と量一定になる均衡点に当たるものです。
つまり、このグラフで唯一つ交点があるということの経済学的な意味は、このモデルには定常点が唯一つあるということです。ミクロ静学でいう体系が唯一の均衡点を持つというのに当たるものです。
この定常状態があるとしても経済が最初からその点にあるとは限りません。そこで次の問題は、最初に経済がこの交点、定常状態にないとき、この交点、定常状態に向かっていくかどうかです。
この検討に使うのが、位相図です。と難しい言葉が出てきました。その基礎が今回の主題である矢印です。
まず、Δk=0線を考えてみます。
この曲線は資本が変化しない条件を示すものですから、曲線に含まれるどの点に経済があっても、資本は変化しません。では、この曲線より上の部分に経済があったときには何が起こるでしょうか?
曲線を示す式は
c=f(k)-δk
でした。生産物から資本減耗の回復に当てる部分を差し引いたものがすべて消費され、資本蓄積に回ることはない。従って、資本は増加しません。同時に、資本減耗はすべて補充されているので資本が減ることもありませんでした。
この線より上の位置にあるということは、cが大きいということです。従って
c>f(k)-δk
が成立しています。これは何を意味するのでしょうか?生産物から資本減耗の回復に当てる部分を差し引いたもの(右辺)以上の消費が行われるということです。財は1種類ですから、この消費は資本を取り崩して行われることになります。資本は減少していきます。
図2.2の左に向かう矢印はこのことを意味しています。
では、この曲線より下の部分に経済があったときには何が起こるでしょうか?
同じように考えれば分かります。
この線より下の位置にあるということは、cが小さいということです。従って
c<f(k)-δk
が成立しています。上の例とは符号の向きが逆です。これは生産物から資本減耗の回復に当てる部分を差し引いたもの(右辺)以下の消費しか行われていないということです。余った生産物は資本の蓄積に回ります。そして資本は増加していきます。そこで、図2.2の矢印は、Δk=0線では左向きになります。
次に、Δc=0線に移ります。
この半直線は消費が変化しない条件を示すものですから、半直線に含まれるどの点に経済があっても、消費は変化しません。
これは、f‘(k)=ρ+δ
で示されています。このときの資本の水準はkmです。そして(2.31.b)式でct=ct+1ですから、〔1+f’(km)-δ〕/(1+ρ)=1です。
この半直線より右の部分に経済があったとき、例えばk*(>km)には、f‘がkの減少関数ですから、f‘(k*)<ρ+δです。
(2.31.b)式で
u‘(ct)=〔1+f’(k*)-δ〕/(1+ρ)*u‘(ct+1)
ですが、ここで、
〔1+f’(k*)-δ〕/(1+ρ)<〔1+f’(km)-δ〕/(1+ρ)=1を考慮すると、u‘(ct)<u‘(ct+1)です。
仮定からu’‘<0ですから、
ct>ct+1
となります。
つまり、この半直線より右の部分に経済があったとき、消費cは減少していきます。
同様に、この半直線より左の部分に経済があったとき、消費cは増加していきます。
これを図にしたのが、図2.3です。
経済的な説明をすると、この半直線より右の部分に経済があったとき、資本の増加に伴ってレンタル料は安くなり、家計は資本蓄積よりも消費cの増加を選ぶことになります。
「図2.4は、図2.2と図2.3を重ね合わせたもので、位相図(phase diagram)と呼ばれている。」
次回は、この位相図(phase diagram)を用いて、経済が定常状態に落ち着くかどうかを検討します。
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