社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その17
今回からは、「2.2.9 動学的な経路の導出:位相図を用いて」です。
今回は、基礎的な部分を説明します。くどいかもしれませんが、基礎を固めておくことは、特に社会人にとっては有益だろうと思います。
具体的には図2.2のグラフに描かれているΔk=0線と図2.3に描かれているΔc=0線の位置と形の説明、そしてこの二つの線が1点で交わることです。
あまりにも当然のことですので、テキストでは説明されていません。おのおのの背後にどのような仮定があるのかを確認しておいてください。
Ⅰ Δk=0線
これは、「社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その16」で説明した(2.32)式を資本―消費平面上に描いたものです。なお、マイナスの資本、マイナスの消費というものはありませんので、この平面は第1象限(原点の右上の区画)しかありません。
後の議論に影響するこのグラフの特徴は、次の通りです。
1 原点を通っている。
2 一本の線である。つまりある水準の資本の水準、k、に対して一つの消費水準cだけが対応している。
3 連続している。どのような資本水準kにも対応する消費水準cが存在しているということです。(連続しているという場合には、kのわずかな変化に対してcが急には変わらないということも含まれますが、これは、後の議論には影響しません。)
4 上に凸である。
5 ある高い資本水準kで消費がゼロとなっている。(テキストにはありませんが、便宜上、この水準のことをkmaxと呼ぶことにします。)
1 原点を通っている。
(2.32)式、c=f(k)-δkで、k=0とすると、
c=f(0)
です。資本がなければ生産はできないという稲田の条件、f(0)=0から、c=0です。k=0,c=0ですから原点を通ります。
2 一本の線である。
(2.32)式、c=f(k)-δkで、資本kの値が決まれば、生産f(k)も、資本減耗も一つの値に決まりますから、cも一つの値に決まります。
3 連続している。
c=f(k)-δkで、fは連続している関数、δkも連続する直線ですから、連続しています。kの値がが決まれば必ずcの値が決まります。
4 上に凸である。
c=f(k)-δkをkで微分すると、
dc/dk=f‘(k)-δ
となります。
稲田の条件のf‘(0)=∞から、資本水準がゼロのときはdc/dkですから、この曲線は右上がりになります。そして、仮定4にから限界生産性が逓減していくので、増加は緩やかになり、黄金律kgの点でf’(kg)=δですから、dc/dk=ゼロ、つまり水平になります。さらに逓減していきますのでこの点以降右下がりになります。
5 ある高い資本水準kで消費がゼロとなっている。
4の説明に加えて、f’(kg)=δと稲田の条件、f‘(∞)=0を考慮すると、kが増加するにつれてf(k)の増加幅は小さくなっていき、最後にはゼロになります。一方δは一定ですからδkはkの増加とともに一定に割合で増え続けます。kがkgと∞の中間のどこかでf(k)がδkと等しくなり、c=0となります。このときのkの水準がkmaxです。
0=f(kmax)-δkmax
Ⅱ Δc=0線
これも、「」で説明した(2.33)式を資本―消費平面上に描いたものです。
後の議論に影響するこのグラフの特徴は、次の通りです。
1 一本の垂直線である。つまりただ一つの資本水準kに対して無限の消費水準cが対応している。
2 この資本水準は、修正された黄金律、kmである。
1 一本の垂直線である。
(2.33)式 f‘(k)=ρ+δで、ρもδも定数です。従って、消費の水準にかかわらずkは一定です。これを資本―消費平面に描けば、垂直線となります。また、限界生産性が逓減しているのでこの条件を満たす資本の水準はただ一つです。(もし、限界生産性が減少、増加を繰り返すとf‘(k)=ρ+δとなるkが二つ以上できる可能性、つまり2本以上の垂直線になる可能性が出てきます。)
2 この資本水準は、修正された黄金律、kmである。
これは、修正された黄金律の定義そのものです。
Ⅲ Δk=0線とΔc=0線がただ一つの交点を持つ。
Δk=0線とΔc=0線は同じ平面上にありますから、交点を持ち得ます。
kmがゼロより小さいか、kmaxより大きいと二つの線は交わりませんが、稲田の条件f‘(0)=∞と、f’‘<0からkmはゼロより大きいことが分かります。
また、kmax>kgで、kg>kmですから、kmax>kmです。従って、二つの線は交点を持ちます。
Δk=0線は、一つのkの値に対し一つの値です。したがって、k=kmの時のcの値はただ一つです。従って、交点はただ一つです。
以上で図2.4(の矢印を除いた部分)が描かれることが確認できました。次回は矢印の説明に入る予定です。
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