社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その16

社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その15」の続きです。 今回は、「2.2.8 定常状態における効率性:黄金律の定義」に進みます。「定常状態」と「黄金律」、「資本の過剰蓄積」については、既に「社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その4」で説明してあります。もし、お忘れなら、読み返しておいてください。 「このモデルにおける定常状態とは(前期末の)資本、kt-1、(今期の)消費c、(今期の)財価格pが時間を通じて一定の状態を指している。」 1 資本、kt-1が一定である条件 定差方程式体系((2.31)式)で、資本の変化を示している、つまり一つの式に前期末の資本、kt-1と今期末の資本、kが入っているのは、(2.31.a)式です。これは(2.30)式を呼び変えたものです。 資本に変化がないという条件は、kt-1=k=kです。これを(2.31.a)式に代入します。すると、 k=(1-δ)k+f(k)-c となります。右辺第1項の括弧をはずします。 k=k-δk+f(k)-c 両辺にkがあるのでこれを相殺します。 0=-δk+f(k)-c 消費の項を移項し、右辺の項の順序を入れ替えます。 c=f(k)-δk  (2.32) この式が意味するのは、生産されたもの(f(k))から資本減耗の回復に当てられる部分(-δk)を差し引いたもの(右辺)がすべて消費(c)に当てられると、資本には変化が生じないということです。 2 消費ctが一定である条件 定差方程式体系で、消費の変化を示している、つまり一つの式に前期の消費、ct-1と今期の消費、cが入っているのは、(2.31.b)式です。 資本の時と同じように、消費にに変化がないという条件は、kt-1=kt=cです。これを(2.31.b)式に代入します。すると、 u‘(c)=(1+f’(k)-δ)/(1+ρ)×u‘(c) となります。両辺をu‘(c)で割り(ここでu‘(c)≠0を仮定します。消費が増えれば効用は増加しますから、これは普通は問題ありません。u‘(c)=0となるのは消費が増えても効用が増加しない、つまり消費が飽和に達している場合です。)、さらに両辺に(1+ρ)をかけます。 1+ρ=1+f’(k)-δ 両辺から1を差し引きます。 ρ=f’(k)-δ 整理すると、こうなります。 f’(k)=ρ+δ  (2.33) この式の意味は、私には直感的には理解しにくいものでした。少し説明をしておきます。なお、もっとすっきりとした説明があるかもしれません。 この式の両辺に資本の増分Δkをかけてみましょう。このΔkは消費を断念して得られたものですから-ΔCです。効用はu‘(c)Δcだけ減少しています。 f’(k)Δk=ρΔk+δΔk ある期に消費を断念して資本を蓄積し、次の期以降に生産を増やすとします。そうして得られた増加額生産されたものがf‘(k)Δkです。資本が増加しているので資本減耗の回復に当てられる部分もδΔk増えています。f’(k)Δk-δΔk=ρΔk 生産の増加分f’(k)Δkから資本減耗の補充に当てる部分δΔkを差し引いたもの(右辺)が、次期の消費の増加分です。ρΔk=ρΔcです。この増加は永続します。従って効用も毎期u‘(c)ρΔcだけ増加します。この永続する効用の増加分を1+時間選好率(1+ρ)で割り引いた現在価値はu‘(c)Δcです。(等比級数の和の公式を思い出してください。) つまり、生産関数の微分が時間割引率に資本の減耗率を足したものに等しいときには、消費を断念して投資をし、その投資によってその期以降消費を増加させても効用に変化がない、つまり消費を減らす意味がないということです。(逆に、投資を減らして消費を増やしても、効用に変化はありません。) 黄金律との比較 さて、このモデルでの資本の定常状態の水準を修正された黄金律(modified golden rule)と呼びます。kmで示すことにします。(2.32)と(2.33)から c=f(km)-δkm f’(km)=ρ+δ です。 これと黄金律(golden rule)を比較してみましょう。「社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その4」で示したように黄金律では f’(kg)=δ  (2.34) でした。 では、kgとkmの大小関係はどうなっているでしょうか? ρ>0ですから、 f’(km)=ρ+δ>δ=f’(kg) です。f’は生産関数の微分で、限界生産性は逓減すると仮定していますから、kが大きくなるほど小さくなります。従って、km<kgです。 黄金律を決めているのは、主観の入らない生産の条件fと技術的に決まり主観の影響を受けないδです。この黄金律と修正された黄金律の差をもたらすのは、時間選好率ρです。このρは主観的なもので、現在ではない期の効用を現在の価値として評価するものです。 将来の効用は割り引かれます。 無限の期間をとると、黄金律の水準まで資本を蓄積する場合と修正された黄金律の水準まででとどめる場合を比較します。黄金律水準まで蓄積する方が、それまでの間に断念すべき消費は多くなり、蓄積を続けている間に消費から得られる効用は小さくなります。一方、蓄積後は、消費は大きくなり得られる効用も大きくなります。時間選好率ρでおのおのを初期まで割り引くと、蓄積後の効用の方が大幅に割り引かれます。両者を比べると、蓄積期間中に失うものの方が大きいため、修正黄金律の水準まで蓄積するのにとどめ、黄金律水準までは資本を蓄積しない方が有利なのです。 ρが小さいと割引の幅の差が小さくなり、修正黄金律は黄金律に近づきます。そしてρ=0の時、つまり効用が割り引かれないときには黄金律がもっともよい選択となります。このとき、黄金律=修正された黄金律です。 (効用の)時間選好率、つまり代表的個人の選好は、このようなプロセスを経て定常状態の資本水準に影響を与えます。 さて、テキストを読まれて、不審を抱かれた方がおいでになるかもしれません。財価格pが一定の条件はどこへ行ったのかと。 3 財価格 pが一定である条件 定差方程式体系の(2.31.c)式から分かるように、消費が時間を通じて一定の状態であれば、価格も時間を通じて一定です。つまり、価格一定の条件は、消費一定の条件と同じで、 f’(k)=ρ+δ  (2.33) です。 ここをクリック、お願いします。 人気blogランキング 人気blogランキングでは「社会科学」では26位でした。