社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その7
「社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その6」に続いて、今回は「2.1.3 前向きの解と後ろ向きの解」の解説です。
ここでのテーマは(2.3)で表される完全予見のもとで、投資家が裁定行動を取ったとき市場で得られるt期の株価、これは(2.2)式で表される、はどうなるかを考えることです。なお、配当も正確に予想されてます。
このような条件の下でも、一つのファンダメンタルズ、前向きの解の他に、初期値に依存して後ろ向きの解が存在するというのがここでの眼目です。この後ろ向きの解を排除する仕組みは、配当も含めた完全予見や裁定行動にはありません。別の仕組みが必要です。
さて、テキストで「(2.6)式を順次(2.4)式に代入していくと、(2.7)式が得られる。」(p.33)と簡単に説明されているのですが、私はこの証明に手こずりました。
一応、証明方法を書いておきます。ひょっとすると斉藤先生の意図された照明方法ではないのかもしれませんし、もっと簡単な証明方法があるのかもしれません。
第1段階
まず、i=-tのときの(2.4)式を計算すると、
p(0)={p(1)+d(1)}/(1+r)
となります。
これを整理すると
p(1)=p(0)(1+r)-d(1) 〔1〕
が得られます。
同じように、以下の式が得られます。
p(2)=p(1)(1+r)-d(2) 〔2〕
p(3)=p(2)(1+r)-d(3) 〔3〕
これを、p(t)を得るまで続けます。
p(t)=p(t-1)(1+r)-d(t) 〔4〕
第2段階
t=0の時の(2.6)式を求めます。
p(0)=pf(0)+b(0) 〔5〕
第3段階
〔5〕を〔1〕の右辺に代入します。
p(1)={pf(0)+b(0)}×(1+r)-d(1)
これでp(1)を0期のファンダメンタルズ、pf(0)と0期のバブルb(0)と1期の配当d(1)で表すことが出来ました。
ここで、記憶しておいていただきたいことがあります。1期の価格の場合には、pf(0)と0期のバブルb(0)は、1プラス債券の利子率、(1+r)の1乗倍されています。そして1期の配当d(1)は、(1+r)の0=1-1乗倍されています。
このp(1)を、再び〔2〕式の右辺に代入します。
p(2)=[{pf(0)+b(0)}×(1+r)-d(1)]×(1+r)-d(2)
p(2)も0期のファンダメンタルズ、pf(0)と0期のバブルb(0)と1期の配当d(1)、2期の配当d(2)で表すことが出来ました。2期の配当が加わっていることに気をつけてください。
2期の価格の場合には、pf(0)と0期のバブルb(0)は、1プラス債券の利子率、(1+r)の2乗倍されています。そして1期の配当d(1)は、(1+r)の1=2-1乗倍されています。そして2期の配当d(1)は、(1+r)の0乗倍されています。
この操作を繰り返していくと、最後にp(t)を0期のファンダメンタルズ、pf(0)と0期のバブルb(0)と1期からt期までの配当d(1)、d(2)・・・・d(t)で表すことが出来ました。
具体的には次の式になります。(x^αは、xのα乗という意味です。)
p(t)=pf(0)×(1+r)^t+b(0)×(1+r)^t-{d(t)+d(t-1)×(1+r)+d(t-2)×(1+r)^2+・・・・+d(2)×(1+r)^(t-2)+d(1)×(1+r)^(t-1)} 〔6〕
第4段階
ここで、〔6〕式の{d(t)+d(t-1)×(1+r)+d(t-2)×(1+r)^2+・・・・+d(2)×(1+r)^(t-2)+d(1)×(1+r)^(t-1)}の経済的な意味を考えて見ましょう。
d(t)はt期の配当そのものです。
d(t-1)×(1+r)はt-1期の配当を1期債券の利子率で運用したものです。つまりt期まで運用したものです。
同様に考えていくと
d(1)×(1+r)^(t-1)は1期の配当をt-1期債券の利子率で運用したものです。つまりt期まで運用したものです。
{d(t)+d(t-1)×(1+r)+d(t-2)×(1+r)^2+・・・・+d(2)×(1+r)^(t-2)+d(1)×(1+r)^(t-1)}は、これらを足しあげたものですから、1期からt期までの配当をt期まで債券の利子率で運用したときの価値です。
第5段階
次に、〔6〕式のpf(0)×(1+r)^tの経済的な意味を考えて見ましょう。
pf(0)は、0期のファンダメンタルズです。したがって、(2.5)式でt=0の場合です。この式は1期から無限の将来にわたる配当を、債券の利子率で0期まで割り引いた現在価値です。
まず、最初にt期の配当について考えて見ます。0期まで割り引くためには1プラス債券の利子率でt回割る必要があります。したがって、pf(0)のこの項はd(t)/(1+r)^tという形になります。pf(0)×(1+r)^tのt期の配当の項はd(t)/(1+r)^tに(1+r)^tを掛けたものですから、d(t)そのものです。
次に、遡って、t-1期の配当について、同じように考えて見ます。0期まで割り引くためには1プラス債券の利子率でt-1回割る必要があります。したがってこの項はd(t)/(1+r)^(t-1)という形になります。pf(0)×(1+r)^tのt期の配当の項はd(t-1)/(1+r)^(t-1)に(1+r)^tを掛けたものですから、d(t-1)×(1+r)です。これはt-1期の配当を債券の利子率で1期運用したもの、つまりこの配当のt期における価値です。
これを繰り返すと、
d(t-2)×(1+r)^2
などが続き、最後に1期の配当についてはこうなります。
d(1)×(1+r)^(t-1)
pf(0)×(1+r)^tの1期からt期までの配当に対応する項を合計すると、
{d(t)+d(t-1)×(1+r)+d(t-2)×(1+r)^2+・・・・+d(2)×(1+r)^(t-2)+d(1)×(1+r)^(t-1)}
となります。この経済的な意味を考えれば、1期からt期までの配当をt期まで債券の利子率で運用したときの価値です。つまり、第4段階で計算したものと同じです。
では、t+1期以降の配当の項についてはどうでしょうか?
まず、最初にt+1期の配当について考えて見ます。0期まで割り引くためには1プラス債券の利子率でt+1回割る必要があります。したがってこの項はd(t)/(1+r)^(t+1)という形になります。pf(0)×(1+r)^tのt+1期の配当の項はd(t+1)/(1+r)^(t+1)に(1+r)^tを掛けたものですから、d(t+1)/(1+r)です。これはt+1期の配当のt期の割引現在価値です。
t+2期以降の配当についても、同じように考えていくことができ、各期の配当のt期の割引現在価値です。
そして、これらを合計したものは、t期のファンダメンタルズです。つまり、pf(t)です。
t期を含むt期以前の期の項とt期以後の項に分けて考え、それぞれをを足し合わせると、こうなります。
pf(0)×(1+r)^t=pf(t)+{d(t)+d(t-1)×(1+r)+d(t-2)×(1+r)^2+・・・・+d(2)×(1+r)^(t-2)+d(1)×(1+r)^(t-1)}
第7段階
以上をすべてまとめるとこうなります。
p(t)=pf(0)×(1+r)^t+b(0)×(1+r)^t-{d(t)+d(t-1)×(1+r)+d(t-2)×(1+r)^2+・・・・+d(2)×(1+r)^(t-2)+d(1)×(1+r)^(t-1)}
=pf(t)+{d(t)+d(t-1)×(1+r)+d(t-2)×(1+r)^2+・・・・+d(2)×(1+r)^(t-2)+d(1)×(1+r)^(t-1)}+b(0)×(1+r)^t-{d(t)+d(t-1)×(1+r)+d(t-2)×(1+r)^2+・・・・+d(2)×(1+r)^(t-2)+d(1)×(1+r)^(t-1)}
=pf(t)+b(0)×(1+r)^t (2.7)
(緑の部分が相殺されます。)
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