民法第772条 改正案 その4

民法第772条 改正案 その3」では、民法を改正することについて考えてみたのですが、どうやら自民党のプロジェクトチームが、特例新法を作る案を纏めたようです。新聞報道ではいろいろな表現が使われており、良く実態が分かりません。 ただどうやら、民法第772条を改正するのではなく、出生届をする際の特例を認める案のようです。再婚相手の嫡出子であるという届け出や前夫の嫡出子ではなく母親の非嫡出子であるといという届け出を認めるというものであるようです。この表現から見ると、前夫の嫡出子という届け出も可能なように読めるのですが、どうなのでしょう。 何かはっきりしません。少し整理してみます。 現在の民法と戸籍法の関係を考えてみると、民法が親子関係の存在を定め、戸籍法は民法に定める親子関係に従って、親子関係を記録しているということでしょう。ここでは民法の規定による親子関係と戸籍に記録された親子関係は一致しています。 さて、具体的な親子関係の事例について、国会(立法府)が定めた民法の適用、解釈に争いがあるときは、裁判で裁判所(司法府)適用の仕方、解釈を示し、具体的な親子関係を定めます。こうして親子関係が確定すれば、それにしたがって戸籍に記録されます。 この場合、重要なのは裁判所の親子関係の判断は、民法に則って民法に規定する親子関係を定めているということです。 さまざまな判決を基に、市町村(行政府)が戸籍を作るにせよ、それは裁判所の民法解釈に基づくものであって、民法に則った処理であることに変わりはありません。 ですから、ここでも民法の規定による親子関係と戸籍に記録された親子関係が一致するという原則は崩れていないのです。 さて、今回の提案は、国会が特例法を作って、民法を改正せずに戸籍法の取り扱いに特例を設けるというもののようです。民法を改正する、あるいは民法の特例法を作るという話とは別でしょう。おそらく。 つまり、法律の規定により、民法の規定に基づく親子関係とは別の親子関係を戸籍上に記載をしても良いということになるのではないかと思います。民法そのものは改正されず、そのまま残るのですから。これは、裁判所や市町村が民法を解釈して、そのように解釈された民法の規定に基づき戸籍を作るということとは全く別物でしょう。 もしそうなら、民法の規定による親子関係と戸籍に記録された親子関係が一致するという原則が崩れてしまうのではないか?これが私の疑念です。 これまでは母親の判断に基づき無戸籍となっていた子がいました。無戸籍の場合にはパスポートの発行などさまざまな行政サービスが受けられなくなることがあるようです。今回の特例により、このような不便は解消されます。 しかし、民法、特に第四篇、第五編に定めのある事項は変化がないのではないでしょうか?もしそうであれば、直系親族の扶養、相続などについては、従来どおりの扱いということになるのではなるはずです。そうであれば、例えば前夫には戸籍上はその子でないけれども民法上はその子であるもの子を扶養する義務が残ります。前夫が死亡した場合、戸籍上はその子でないけれども民法上はその子であるものは、相続をする権利を持ちます。また、再婚相手には、戸籍上はその子であるけれども、民法上はその子でないものを扶養する義務はありません。母親が死亡したり、母親と離婚した場合には、扶養を拒否するという事態が発生する可能性があり、これは民法上は問題がないということになります。再婚相手が死亡した場合に、戸籍上はその子であるけれども、民法上はその子でないものは、法定相続人にはなれないということになります。 いくら何でも、民法上の父と戸籍上の父が違うというのような制度を作るなどと言うことははあり得ないような気もします。法律上の父はどっちなんだと聞いたときに、法律によりけりですと答えられては困ります。(もっとも、各々の法律には、目的があるのでその目的に照らして、変えてあります、という答えが返ってこないとは限りません。) しかし、時の勢い、世間の空気というのは恐ろしいですから、ややこしい事態が発生してしまうような気がします。杞憂でしょうか? とにかく、今回の特例新法によってどういうことになるのか、はっきりしてもらいたいものです。 人気blogランキングでは「社会科学」の56位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング