均衡予算乗数のまとめの二歩手前 その3

均衡予算乗数のまとめの二歩手前 その1」では、通常の国民経済計算のやり方での分析をしてみました。

今回は、生産された政府サービスの真実の付加価値が何らかの方法で計測できる場合の分析をしてみます。純然たる理論の問題として取り扱います。私自身はどうやったら計測できるのか分かりません。

仮定は、前回のものも含め同じです。さらに土地は生産に不要であると仮定します。地代はなくなります。

1 三面等価の法則

政府サービスの価値が、必ずしもその生産のために必要とされるコストに等しくないというケースでは、次のような形で所得=生産=支出の三面等価の法則が成立しています。

民間主体から支払いを受けた賃金(WP)+政府から支払いを受けた賃金(WG)+民間企業の営業余剰(SP)+政府の営業余剰(SG)=民間主体が生産した財・サービスの付加価値(VP)+政府が生産したサービスの真実の付加価値(VG)=民間の消費支出(C)+投資(I)+市場価格で表示された>真実の政府最終消費支出(G)   (1)

このケースでは、生産された政府サービスの価値(VG)が、その生産に投入された中間投入物の価値、生産に携わった労働者に支払われた賃金を上回っています。このため通常の場合よりも付加価値は大きくなっています。付加価値が大きいので、政府サービスの生産民間の生産主体と同様に政府にも営業余剰(SG)が存在します。また、これに伴って政府最終消費支出(G)は、政府サービスの価値に等しいので、政府の営業余剰分(SG)通常のものより大きくなっています。

要するに、国内総所得(GDI)、国内総生産(GDP)、国内総支出(GDE)もすべてが、政府の営業余剰分(SG)だけ大きくなっているのです。

(注1)もちろん、SGが負である場合は、小さくなります。

(注2)政府に営業余剰が発生しなければ、通常の法則となります。

2 均衡財政

均衡財政の条件式は次のようになります。

T+SG=G+Z (T-Z=G-SG)   (2)

この場合、政府には税収以外に政府生産に伴う営業余剰という収入があります。このため通常の式と異なります。

ただし、政府サービスの購入と販売は政府内部の取引ですので、外見からは分かりません。収入であるSGの発生は全く見えません。また、支出面ではG全体が見えず、生産のために購入される中間投入物の代金と生産のために雇用する労働者に支払う賃金の支出だけが表面に出てきます。したがって、両者の差額である政府の営業余剰分の購入も見えません。

外見上はこの式を税収(T)=購入される中間投入物の代金と生産のために雇用する労働者に支払う賃金の支出(G-SG)+給付(Z)と変形したものとなります。

3 可処分所得

政府に税収ではない収入があるため、国全体の可処分所得と民間の可処分所得を分けて考える必要が出てきます。 

民間部門可処分所得の定義式

 DIP≡WP+WG+SP-T+Z   (3)

国内総可処分所得の定義式    

 DIT≡WP+WG+SP+SG-T+Z  (4)

両差の差は、政府の営業余剰(SG)です。

(注3)政府営業余剰がゼロとおかれる、通常のケースでは両者は一致します。

支出を使って民間部門可処分所得を表示すると、

DIP≡WP+WG+SP-T+Z=(WP+WG+SP)-(T-Z)=C+I+G-SG-(T-Z)

                                     (5)

となります。同様に、国内総可処分所得を表示すると

DIT≡WP+WG+SP+SG-T+Z=WP+WG+SP+SG-G=C+I+G-T+Z (6)

となる。

4 消費関数

いま、民間の消費支出は、民間可処分所得で決まるとすれば、

 C=c(DIP)=c(WP+WG+SP-T+Z)=c(WP+WG+SP-G+SG)=c(C+I+G-SG-T+Z)

                           (7)

となります。この仮定は、以下で示す命題の成立に決定的な役割を果たしています。

命題1 民間の消費支出が民間可処分所得で決まるとすれば、均衡財政の下では、給付、政府支出の増加△Z、△Gは民間可処分所得DIPに影響を与えない。

DIP=C+I+G-SG-T+Z

均衡予算(T+SG=G+Z (T-Z=G-SG))を考慮すると、

  =C+I

  =c(DIP)+I     (8)       

この体系では外生変数Iに応じて内生変数DIPが決まります。外生変数ZもGも内生変数DIPの決定に影響しません。

ちょっと数学的な説明で納得しにくいかもしれません。経済の言葉で説明してみましょう。

政府支出が△G増加すると、新たに同額の生産が行われ、同額の所得が発生します(同額の付加価値△VGが生み出され、分配されます)。このとき民間には△G-△SG(これは△SP、△WP、△WGから構成されます。)の所得が、政府には△SGの所得が分配されます。

政府が均衡財政を維持するためには、普通の場合政府支出△Gと同額税を増やさなければなりません。△G=△Tです。しかし、このケースでは政府に△SGの所得が発生しています。この分だけ増税額は少なくてすみます。均衡財政を維持するためには、政府は民間に△T=△G-△SGの追加課税をするだけですみます。

民間の可処分所得の変化は、所得の増加分から新たな課税分を差し引いたものですから、△G-△SG-△T=△G-△SG-(△G-△SG)=0となります。

つまり、民間可処分所得は変化しません。

(注4)SG=0であれば、普通煮えられる結論です。

なお、先に仮定したとおり、消費(C)は民間可処分所得(DIP)により決まるとしていますので、消費(C)は変化しません。つまり、第二段階での波及は生じません。通常の乗数過程は、始まらないのです。

一方、給付の増加の場合、単なる再分配ですから、生産は増加しません。このためSGに変化はなく、△Gと同額の増税△Tを行う必要があります。可処分所得に変化は生じません。

命題2-1 民間の消費支出が民間可処分所得で決まるとすれば、均衡財政の下では、給付Zの変化は国内可処分所得に影響を与えない。しかし、政府最終消費支出Gの変化は国内可処分所得に影響を与える。

DIT=C+I+G-T+Z

  =C+I+G-(G-SG )

  =C+I+SG

  =c(DIP)+I+SG   (9)

政府最終消費支出が△G増加すると、第一段階で、新たに同額の生産が行われ、同額の所得が発生します。このとき民間には△G-△SGの所得が、政府には△SGの所得が分配され、全体としての所得の増加は△Gです。このとき、先に説明したように均衡財政を維持するために、政府は民間に△Tではなく、△T=△G-△SGの追加課税をすれば足ります。

これはCとIに影響を及ぼしません。したがって、国内総可処分所得の変化は、△G-△T=△G-(△G-△SG)=△SGです。

(注5)もちろん△SG=0なら国内可処分所得は変化しません。

命題2-2 民間の消費支出が民間可処分所得で決まるとすれば、均衡財政の下で政府最終消費支出が増加したときの、国内可処分所得に対する乗数は、新たに行われる政府生産の営業余剰率(△SG/△G)に等しい。したがって、政府の生産により正の営業余剰が発生すれば、国内可処分所得は増加し(乗数は正)、営業余剰がゼロであれば変化せず(乗数はゼロ)、営業余剰が負であれば減少する(乗数は負)。

証明は略

命題3 民間の消費支出が民間可処分所得で決まるとすれば、均衡財政の下で政府最終消費支出が増加したときの、政府最終消費支出の増加△Gは、同額の国内総生産、国内所得、国内総支出の増加をもたらす。均衡予算乗数は1。

命題2-1から、民間可処分所得が変化せず、消費が増えません。またIは外生ですから変化しません。増加する支出項目は政府最終消費支出Gだけです。したがって国内総支出(GDE)の増加額は△Gです。

 

命題2-1の後半,2-2を除けば、これらの命題は、ほとんど通常の国民経済計算で得られる結果と、形式的には同じです。

是非、注意していただきたいのですが、これら3つの命題はすべて、民間の消費支出が民間可処分所得で決まるという仮定に依存しています。政府が賢明な支出を行うか、あるいは無駄な支出を行うか、つまり、政府の生産活動で正の営業余剰が生じているか、あるいは負の営業余剰(営業損失)が発生しているか、これは民間可処分所得と国内可処分所得の差になります。もし、政府の営業余剰が民間の消費支出に影響を与えるなら、3つの命題は成立しません。

なお、同様に政府最終消費支出(G)の変化、GDEの増加が投資に影響を与えないこと、加速度原理が働かないことも、これらの命題が成立がする前提です。

これらは、理論的な問題と言うよりは実証の問題です。

次回、もう少し説明をしたいと思います。

(2006年12月29日 少し追加、修正を行いました。)

(2007年1月5日 消し忘れていたところを消しました。)

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