均衡予算乗数のまとめの二歩手前 その4

通常の国民経済計算では政府サービスの価値はその生産のために投入された中間財、労働者に支払われた賃金の額に等しいと仮定されています。

なお、小野先生のディスカッションペーパー Fallacy of the Multiplier Effect:Correcting the Income Analysis (大阪大学社会科学研究所 ディスカッションペーパーNO.673)では"present national accounting inplicitly asuume"とされていますが、私の理解では、これは explicit assumptuon です。

これが正しくないにもかかわらず通常の計算が行われていると、どのような誤解が生じるでしょうか?これが今回のテーマです。

均衡予算乗数のまとめの二歩手前 その3」であげた命題などについて、検討していきます。

1 三面等価の法則

真実の所得=生産=支出の三面等価の法則が成立しています。

民間主体から支払いを受けた賃金(WP)+政府から支払いを受けた賃金(WG)+民間企業の営業余剰(SP)+政府の営業余剰(SG)=民間主体が生産した財・サービスの付加価値(VP)+政府が生産したサービスの真実の付加価値(VG)=民間の消費支出(C)+投資(I)+市場価格で表示された真実の政府最終消費支出(G)   (1)

三面等価の法則が崩れるわけではありませんが、しかし、国内総所得(GDI)、国内総生産(GDP)、国内総支出(GDE)もすべてが、政府の営業余剰分(SG)だけ小さく理解されます。もちろん、政府の生産の効率が悪くSGが負である場合は、過大評価されることになります。

また、政府の営業余剰(SG)はその概念自体が存在しなくなります。政府が生産したサービスの価値(VG)はSG相当額だけ小さく認識されます。政府の最終消費支出(G)も、同じようにSG相当額だけ小さく認識されます。これをGFと書くことにします。

2 均衡財政

真実の均衡財政の条件式は次のとおりでした。

T+SG=G+Z (T-Z=G-SG)   (2)

SGが認識されませんし、政府最終消費がGFと認識されますから、これが

T=GF+Z  (2☆)

となります。(2)の両辺からSGを引いたものが(2☆)ですから、一方で均衡であれば、他方でも均衡です。

3 可処分所得

政府に税収ではない収入SGが認識されないため、国全体の可処分所得と民間の可処分所得は同じものだと理解されます。 

民間部門可処分所得の定義式

 DIP≡WP+WG+SP-T+Z   (3)

に変化はありません。

ただ、GがGFと誤認されSGが認識されないので、支出を使って民間部門可処分所得を表示すると、

DIP≡WP+WG+SP-T+Z=(WP+WG+SP)-(T-Z)=C+I+GF-(T-Z)

                                     (5☆)

となるのです。

4 消費関数

いま、民間の消費支出は、民間可処分所得で決まるとすれば、

 C=c(DIP)=c(WP+WG+SP-T+Z)=c(WP+WG+SP-G+SG)=c(C+I+G-SG-T+Z)

                           (7)

となることに変化はありません。しかしさらに変化させた

C=c(DIP)=c(C+I+GF-(T-Z))     (7☆)

の形で認識されるでしょう。

政府の営業余剰(SG)があることが認識されませんので、それが民間の消費に影響を与える可能性も検討されません。民間の投資に影響を与える可能性も認識されません。

命題1 民間の消費支出が民間可処分所得で決まるとすれば、均衡財政の下では、給付、政府支出の増加△Z、△Gは民間可処分所得DIPに影響を与えない。

この命題はそのまま成立します。ただし、△Gの大きさは△GFと誤認されます。また、DIPの大きさもSGだけ小さく認識されます。

これは、民間の消費支出が民間可処分所得で決まるという仮定が共通であること、SGを認識した財政均衡が成立していれば、認識しない均衡も成立するからです。

命題2-1 民間の消費支出が民間可処分所得で決まるとすれば、均衡財政の下では、給付Zの変化は国内可処分所得に影響を与えない。しかし、政府最終消費支出Gの変化は国内可処分所得に影響を与える。

国内可処分所得という概念自体が存在しませんので、この命題に対応するものは、命題1になってしまいます。

このため、この命題は認識されません。特にZとGの差が現れる点は面白いものなのですが、まったく検討されません。

命題2-2 民間の消費支出が民間可処分所得で決まるとすれば、均衡財政の下で政府最終消費支出が増加したときの、国内可処分所得に対する乗数は、新たに行われる政府生産の営業余剰率(△SG/△G)に等しい。したがって、政府の生産により正の営業余剰が発生すれば、国内可処分所得は増加し(乗数は正)、営業余剰がゼロであれば変化せず(乗数はゼロ)、営業余剰が負であれば減少する(乗数は負)。

これも認識されません。

命題3 民間の消費支出が民間可処分所得で決まるとすれば、均衡財政の下で政府最終消費支出が増加したときの、政府最終消費支出の増加△Gは、同額の国内総生産、国内所得、国内総支出の増加をもたらす。均衡予算乗数は1。

△Gは△GFと誤認されます。同時に国内総生産(GNP)、国内所得(GNI)、国内総支出(GNE)の増加も△SGだけ小さく理解されます。この結果、この命題は形式的にはそのまま成立します。

ただ、同じ△GFが同じでも、△SGが大きな場合と小さな場合(負の場合も含みます)があります。

もし、△SGが大きな場合、同じ△GFに対して生ずる真の国内総生産(GNP)、国内所得(GNI)、国内総支出(GNE)の増加額は大きく、逆に△SGが小さな場合、同じ△GFに対して生ずる真の国内総生産(GNP)、国内所得(GNI)、国内総支出(GNE)の増加額は小さくなります。△SGが負の場合にはこれらは小さくなります。

したがって△GFの真の国内総生産(GNP)、国内所得(GNI)、国内総支出(GNE)に対する乗数というものを考えると、これは△SGが大きな場合は大きく、小さな場合には小さいと認識されます。この乗数には大小があるのです。特に△SGが負の場合には1以下になります。

先にあげた小野先生のディスカッションペーパーで取り扱われているのは、この乗数の問題です。

 

(207年1月5日 消し忘れを消しました。)

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