均衡予算乗数のまとめの二歩手前 その1

均衡予算乗数」のまとめをしておきたいと思います。自分のためです。

仮定

1 資本の減耗はないとします。これによって減価償却前の粗の概念と償却後の純の概念を区別する必要はなくなります。以下では、記号ではGDPといったものを使いますが、言葉では国内総生産といった表現にします。

2 海外との貿易などの取引は一切存在しない(閉鎖経済)とします。これにより、国内概念と国民概念の差を考える必要はなくなります。記号でも言葉でも国内概念で書いていきますが、国民と理解していただいても結構です。

3 市場はすべて競争的であるとします。したがって、政府が中間投入物を購入するときも、労働者を雇用するときも、土地を借りるときも、他の主体と競争しつつ購入などを行うものとします。

4 税はすべて直接税であるとします。この税は一括して課税され、所得に比例して変化しないものとします。消費税のようなタイプの間接税(市場価格に影響を与えるもの)はないものとします。また、補助金は一切ないものとします。したがって、補助金が市場価格に影響を与えることはありません。

1の仮定と4の仮定を組み合わせると、市場価格表示の国内総所得GDPと要素価格表示の国内総生産GDPは一致します。

5 政府は、政府サービスを生産し、購入するものとします。また、直接税を徴収し、所得の再分配のため給付を行います。

6 政府は、投資を行わないものとします。政府の行う固定資本形成はゼロです。

7 金の貸し借りはないものとします。したがって、利子は存在しません。

8 私的主体の営業余剰はすべて家計に分配されます。地代はすべて家計に帰属します。

9 経済には増産の余地があるものとします。

定義をいくつかしておきます。ごく普通のものです。

生産:付加価値を生み出す活動(付加価値がマイナスになることがあります。)

国内総生産:すべての生産主体の生み出した付加価値の総計

本源的な所得:生産活動(付加価値を生み出す活動)に貢献したことに対する報酬。具体的には、労働に対する報酬である賃金、土地を貸したことに対する報酬である地代、資本を提供し、生産をマネージしたことに対する報酬である営業余剰(付加価値がマイナスの場合は不になります。)

再分配:政府による税の徴収と給付

可処分所得:再分配後の所得

国内総所得(GDI)は、賃金総額+地代総額+営業余剰総額です。

また、税(T)、政府の給付(Z)を考えると、総国内可処分所得は、賃金総額+地代総額+営業余剰総額-税+給付です。(初歩的な教科書では給付のことが無視され、可処分所得とは課税後の所得のことと書かれている場合がありますが、ここでは給付のことを考慮しておきます。)

家計の消費行動はケインズ型の消費関数で決まるとします。

したがって、消費支出Cは C=a+bGDIで決まります。つまり、可処分所得の構成項目すべてについてbは共通であるとします。また、これらの所得を得るどの家計でもbは共通としています。

さて、増税△Xとこれと同額の政府サービスの購入増Xを同時に実施したとします。

通常の国民経済計算での計算をしてみます。

まず、政府サービス(X)が購入され、これに対応して政府サービスが(X)生産されます。

その際、政府に雇用されている労働者の賃金、政府に土地を貸している家計に地代が支払われます。また、中間投入物が購入されます。政府サービスの生産からは営業余剰が生じないと仮定しましたので、営業余剰はこの段階では発生しません。

これを受けて中間投入物の生産が行われ、これを生産している主体(企業としましょう)に雇用されている労働者の賃金、企業に土地を貸している家計に地代が支払われます。また、企業に営業余剰が発生します。さらに中間生産物生産のための中間投入も考えられます。これら中間投入物は生産の過程で失われますから、生産されたものは、結局政府サービスだけです。その額はXです。

このような連鎖が続いていくと結局、最初の政府サービスの購入の増加額と同じ額だけ、政府サービスの生産額が増加し(同じ額の付加価値が生み出され)、それが労働者の賃金、地代、企業の営業余剰として分配されますので、所得も同じ額だけ増加します。

つまり、賃金総額+地代+企業の営業余剰総額がXだけ増加し、国内総所得、GDIもXだけ増加します。これにより国内総可処分所得もXだけ増加します。

しかし、同時に、Xの増税により国内総可処分所得はXだけ減っています。したがって両方の効果を合わせると、国内総可処分所得は不変のままです。したがって、消費にも変化は生じません。したがって、国内総支出GDEの増加は政府サービスの購入(政府最終消費支出)の増加Xだけです。

要約すると、国内総支出GDE,国内総生産GDP,国内総所得GDIはすべてXだけ増加します。そしてGDEの変化は政府サービスの購入(政府最終消費支出)がX増加するだけです。GDPも政府サービスの生産量(付加価値)がX増えるだけです。GDIは労働者の賃金と家計の地代と中間投入物を生産している企業の営業余剰が増加し、その合計額はXです。

つまり、均衡予算上乗数は1です。

国内総所得が増えているのに、国内総可処分所得が増えないのは、所得が増えた額と同額の増税が行われているからです。(2006年12月26日追記)つまり均衡予算の国内総可処分所得に関する乗数はゼロです。

さて、この結論には、注意が必要です。この結論を導くために、次のような仮定を置きました。

消費支出Cは C=a+bGDIで決まります。つまり、可処分所得の構成項目すべてについてbは共通であるとします。また、これらの所得を得るどの家計でもbは共通としています。

これは、あまり現実的ではありません。家計により、また所得の構成要素によりbが違うという可能性は大いにあります。経済全体としては、増加した所得と同額の課税がなされるにしても

一つ一つの家計では同額になることはまず考えられません。つまり可処分所得の総額が変わらなくても、その分配が変わる可能性が大きいのです。

この場合、もし、可処分所得が増加したときにより多く消費に回す(bが大きい)家計の可処分所得が増え、そうでないない家計の可処分所得が減ると、消費は純増します。これは経済に様々な波及効果をもたらしていきます。

その結果、通常であれば、国内総支出GDE,国内総生産GDP,国内総所得GDIはすべてX以上に増加します。そしてGDEの変化は政府サービスの購入(政府最終消費支出)がX増加するだけではなく最終消費支出も増加します。GDPも政府サービスの生産量(付加価値)がX以上増えます。GDIは労働者の賃金と家計の地代と中間投入物を生産している企業の営業余剰が増加するだけではなく、消費財の生産に伴って増加しますので、結局はX以上増加します。

国内総所得が増税額以上に増えていますので、国内総可処分所得は増加します。

次回、偽装された政府サービスの生産の議論をしたいと思います。

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