行政窓口サービスの民間委託

hamachanさんが、東京都足立区の窓口サービスの民間委託(派遣?)問題を紹介されています(http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/10/post_9761.html)。

hamachanさんは足立区に対して批判的で、それについては私に異論はないのですが、足立区は、ある意味で窓口サービスの委託の問題を正確に把握しているようです。

以前に書いたこと(http://takamasa.at.webry.info/200603/article_4.html)と重複するので気が引けるのですが、行政サービス、それも住民に直に接触し、直接提供するサービスは特別な性格を持っています。

普通の例からスタートします。足立区が役所のパンフレットの作成を、印刷会社に委託したとします。どんなパンフレットを造って欲しいかは、当然示されます。その通りのパンフレットができたかどうかは、印刷、製本が終わって、パンフレットができあがってから確認すれば良く、もし、期待通りのものができあがっていなければ、区は受け取りを拒否し、代金の支払いを拒むことができます。この場合、印刷会社と区の間で問題は処理され、住民が直ちに損害、被害を被ることはありません。

ところが、窓口サービスの場合は、住民が直ちに損害、被害を被る可能性があります。

まず、窓口で住民票をとろうとしたら委託会社の社員が受付の仕方を間違えて、うまく仕事が進まなかったとします。これは直接の被害です。この場合、社員が直接サービスを提供しているので、住民にサービスを提供する前に、区がそのサービスが適切なものかどうかを確認することができません。

また、契約で明確に定められた仕事の手順ではなく、住民への口の利き方、態度などになると、抽象的に、契約書には書けません。「丁寧に」、「親切に」、「礼儀正しく」と書いてあってもその水準がどの程度のものか、はっきりしませんから社員が適当だと考えるやり方でに対応することになります。これが区民の要求に一致しなければ、直接の被害であることは同じです。

区民が怒って窓口でトラブルが起これば、おそらく、そこにいる区の正職員が対応しなければなりません。ひょっとすると、区長のところに怒鳴り込む人がいるかもしれません。この場合も、なだめるのは区の正職員でしょう。「委託先の職員がやったことで、委託先に注意しておきます。」では、済まないでしょう。

区長としては、区長選挙もありますから、区民を怒らせるわけには参りません。窓口で区民が怒れば、窓口の担当課の課長さんが区長さんに叱られてしまいます。まずいです。

怒られても、自分が指揮、命令できる職員のしたことであれば、自分の責任です。あきらめもつきます。今後同じことが起こらない様に指することもできます。

しかし、委託先社員となれば、そうはいきません。目の前で、委託先の社員が働いているのですから、トラブルが起こりそうになったら、つい指示をしたくもなろうというものです。それができないとなると、胃が痛くなるかもしれません。

「委託業務従事者が業務遂行する過程において、行政機関の指揮監督下に置き、必要に応じて随時指導、指示できるよう、公共サービス改革法における特例措置を設けてほしい」というのは、よく分かります。

よく分かりますが、これはhamachanさんご指摘の通り、無理です。つまり、素直に考えると、「窓口業務という直接的な住民サービスを民間企業が実施する」のは、どうも無理なようなのです。まだ、派遣の方が合うような気がします。その場合、公務員に対する統制のような措置が執れないと言う問題はありますが。

しかし、hamachanさんによると、足立区はさらに突進したようです。一体守秘義務など、どうする気なのでしょう?

人気blogランキングでは「社会科学」の31位でした。今日も↓クリックをお願いします。

人気blogランキング