「「「ちょっと変だよ、日経新聞 基礎的財政収支」について」の補足」について

「「ちょっと変だよ、日経新聞 基礎的財政収支」について」の補足」について

の続きです。

名目成長率が長期利子率より低かったり、基礎的財政収支が赤字であったりしたときに、財政の持続を可能にするためにはどのような条件が必要か?これが問題です。

名目成長率が長期利子率より低い場合の条件

名目成長率が長期利子率より低いとき、国債残高の増加率を名目成長率と同じに保つためには、次のような条件が必要です。

国債残高×(長期利子率-名目成長率)=基礎的財政収支の黒字

簡単に説明します。

利払い費=国債残高×長期利子率

です。

これから、財政基礎収支の黒字を差し引いたものが、国債の新規発行額です。

国債新規発行額=利払い費-基礎的財政収支の黒字

これを、国債残高で割ったものが国債残高の増加率です。

国債残高増加率=国債新規発行額÷国債残高

これが、名目成長率と同じであることが財政持続の条件です。

名目成長率=国債残高増加率

これを元に戻していくと、こうなります。

名目成長率=国債新規発行額÷国債残高

       =(利払い費-財政基礎収支の黒字)÷国債残高

       =(国債残高×長期利子率-財政基礎収支の黒字)÷国債残高

さらに整理します。まず、両辺に国債残高をかけます。

国債残高×名目成長率=国債残高×長期利子率-基礎的財政収支の黒字

両辺に-1をかけます。

-1×国債残高×名目成長率=-1×国債残高×長期利子率+基礎的財政収支の黒字

国債残高×長期利子率を両辺に足します。

国債残高×長期利子率-1×国債残高×名目成長率=基礎的財政収支の黒字

左辺を国債残高でくくると、こうなります。

国債残高×(長期利子率-名目成長率)=基礎的財政収支の黒字

これで証明終了です。最初の式と見比べてください。同じものであることがわかるはずです。

この式の意味ですが、こういうことです。

たとえ長期利子率が名目成長率よりも高くても、

国債残高にこれらの二つの率の差をかけたものと同じ額の基礎的財政収支の黒字を出し続ける事ができれば、

国債残高の増加率を名目成長率と同じにすることができる。

このとき何が起こるかです。

1 名目GDPはα%で増加しています。

2 国債残高もα%で増加しています。

3 名目GDPの一定割合が税収だとすると、税収もα%で増加します。

4 基礎的財政収支は、国債残高と同じ率で増加しますから、その伸び率もα%です。

5 税収から基礎的財政収支の黒字額を差し引いたものが、一般歳出と交付税交付金です。 

  税収も基礎的財政収支の黒字額もα%で増えていますから、二つの差である一般歳出と交付税交付金の合計額もα%で増加します。

6 税収も基礎的財政収支の黒字額も一般歳出と交付税交付金の合計額もα%で増加しますから、税収に占める財政基礎収支の黒字額の割合も、一般歳出と交付税交付金の合計額の割合も一定です。

7 もし長期利子率が一定なら利払い費の増加率は国債残高の増加率に等しいので、やはりα%で増えます。税収に占める利払い費の割合も一定です。

結局、名目GDP、税収、一般歳出と地方交付税交付金基礎的財政収支の黒字額、利払い額、国債残高がすべて同じ率で増え続けることになります。

以下参考です。

基礎的財政収支の黒字額は、国債残高に長期利子率-名目成長率をかけたものですから、

国債残高が大きいほど、

長期利子率が名目成長率を上回る幅が大きいほど、

大きくなります。

なお、問題になるのは長期利子率-名目成長率ですから、二つの率の絶対額はこれに限っていえば重要ではありません。

もし一般歳出と地方交付税交付金の増加率が名目GDPの成長率よりも高ければ、どうなるか?

財政持続のための条件

国債残高×(長期利子率-名目成長率)=財政基礎収支の黒字

を守るために、税収を増やさなければなりません。そのためには名目GDPに占める税収の割合を高め続けなければなりません。この割合を100%にすることはできませんから、財政規律として、一般歳出と地方交付税交付金の増加率が名目GDPの成長率と同じにとどめることが要求されることになります。

もし、名目GDPの成長率がマイナスだったら?

長期利子率はマイナスにはなりませんから、必ず基礎的財政収支を黒字にしなければなりません。

ついでのついでです。前回書いたような財政持続の条件を思い出してください。

「名目成長率と長期利子率が等しく、基礎的財政収支が均衡していれば財政は持続可能」でした。これは

財政持続のための条件

国債残高×(長期利子率-名目成長率)=基礎的財政収支の黒字

の特殊ケースです。

長期利子率が名目成長率と同じという条件をこの式に組み込むと、こうなります。

国債残高×(名目成長率-名目成長率)=国債残高×ゼロ

                         =ゼロ

                         =基礎的財政収支の黒字

基礎的財政収支の黒字がゼロということは基礎的財政収支が均衡しているということです。

国債残高×(長期利子率-名目成長率)=基礎的財政収支の黒字は財政持続の一般条件なのです。

すると、容易に想像できると思いますが、この黒字がマイナスである場合、つまり赤字のときの財政持続の条件も導けます。

右辺がマイナスですから、左辺もマイナスです。国債残高は正の値ですから(長期利子率-名目成長率)がマイナスにならなければなりません。つまり名目成長率が長期利子率よりも大きいことが必要です。その差はこう計算されます。

国債残高×(長期利子率-名目成長率)=基礎的財政収支の黒字

両辺に-1をかけて、マイナスの黒字を赤字と書き換えます。

国債残高×-1×(長期利子率-名目成長率)=基礎的財政収支の赤字

整理するとこうなります。

国債残高×(名目成長率-長期利子率)=基礎的財政収支の赤字

両辺を国債残高で割ります。

名目成長率-長期利子率=基礎的財政収支の赤字÷国債残高

これが、基礎的財政収支が赤字のとき、なお、財政を持続可能なものとするための名目成長率と長期利子率の関係を示す式です。

逆に名目成長率が長期利子率を上回るなら、

基礎的財政収支の赤字=国債残高×(名目成長率-長期利子率)

となるまでは、基礎的財政収支の赤字を出しても、財政は持続可能です。

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