「「ちょっと変だよ、日経新聞 基礎的財政収支」について」の補足

「ちょっと変だよ、日経新聞 基礎的財政収支」について」を少し、補足しておきます。

財政再建について、やや経済学の教科書的な説明です。

財政を考えるとき、重要なのは財政を運営し続けられるかどうかです。

そのための条件は、税府の収入に占める利払い費の割合を一定にとどめることです。

「国家を家計に例えるな」というご意見があり、納得がいくのですが、わかりやすさという良さはあります。普通の家計を考えると、収入に対する住宅ローンの割合を例えば25%位に抑えておかないと生活が成り立ちません。同じように政府の収入に占める利払い費の割合を一定に抑えておく必要があります。この割合がどんどん高くなっていくと、政府本来の仕事に使うお金がなくなってしまいます。これでは困ります。さらに政府の収入を利払い費が上回るようなことがあれば、完全な財政の破綻です。

一方、「住宅ローンを少し筒でも返していくように政府の収入に占める利払い費の割合を下げていく必要はないのか?」と聞かれれば、「財政を持続させるだけなら、その必要はない。」と答えるほかありません。個人には寿命や定年がありますが、国家にはそれはありません。政府が永遠の命を持つ存在である限り、利払い費の割合一定という条件を満たしていれば存続は可能です。きちんと利払いをしている限り、貸し手がいなくなることはありません。

もちろん、この割合を下げていった方が望ましいでしょう。国には突然支出しなければならない事態が発生し得ます。例えば東海地震とか。そのような時のために、この割合を下げておくことはいいことです。しかし、それを目標にして、無理な支出の削減や増税をして経済を混乱させるリスクを冒すのは考えものです。じっくり取り組めばいいことを、焦って処理しようとして返って事態を悪化させるというのはよくあることです。1997年がそうでした。あの後、日本経済がどのような状態になったかを振り返れば、その恐ろしさが分かるはずです。

さて、このような考え方に立って、長期的にみてこの割合を一定に保つ条件を考えてみます。

あくまで長期的な話です。プライマリーバランスや名目成長率と長期金利の議論は、このような考え方で財政再建を考えるときの道具です。

まず、政府の収入の主たるものは税収です。資産売却による収入などたかがしれていますし、所詮、一時的なものにすぎません。その税収は長期的には名目GDPの一定割合だと考えられます。景気の循環や課税システムの特性によって様々な変化はあるでしょうが、長期的にみれば一定と仮定しておきます。これをどんどん引き上げるわけには行きません。

では、利払い費はどうかといえば、これは国債残高に長期金利を掛けたものと見ていいでしょう。これも細かい議論はあり得ますが、大まかな話としてこう仮定しておきます。

ちょっとだけ式を使うと、ここまで書いたことはこういうことです。

税収=名目GDP×定数

利払い費=国債残高×長期利子率

こうすると、税収に占める利払い費の割合は

利払い費÷税収=(国債残高×長期利子率)÷(名目GDP×定数)

となっていることが分かります。

整理すると、こうなります。

利払い費÷税収=(国債残高÷名目GDP)×(長期利子率÷定数)

いま、長期利子率は長期的にみて一定と仮定すると、利払い費の税収に占める割合を一定に保つためには(国債残高÷名目GDP)を一定に保てばいいと言うことが分かります。

これが「「ちょっと変だよ、日経新聞 基礎的財政収支」について」で引用した日経の記事で、この割合が重要だとしていた理由です。

先へ進みます。

名目GDPは名目GDPの成長率で増加していきます。成長率がマイナスなら減っていきます。

この成長率をX%とします。

国債残高もX%の割合で増加するにとどめれば、国債残高÷名目GDPを一定にすることができます。

一般的な支出(一般政策経費プラス地方交付税交付金です。)と利払い費を足したものを税収で賄えれば、国債残高は増えません。増えるのは賄いきれなかったときです。賄いきれない額だけ新たに国債を発行しなければなりませんから、その額だけ国債残高は増加します。

今、一般的な支出は税収で賄えると仮定します。これが基礎的財政収支の均衡です。基礎的財政収支の均衡は利払い以外の支出を賄えるという意味です。誤解をされる方があるようですが、利払い費まで賄えるという意味ではありません。すると利払い費の額だけ国債を新たに発行しなければなりません。さらに、付け加えて長期利子率が長期的にみて、Y%であると仮定します。国債残高に何が起こるでしょうか?

新規国債発行高=国債残高の増加額=国債残高×長期利子率(Y%)

さて、国債残高の増加率は、国債残高の増加額を国債残高で割ったものです。

この増加率を計算してみます。

国債残高の増加額÷国債残高=国債残高×長期利子率(Y%)÷国債残高

                   =長期利子率(Y%)

このように基礎的財政収支が均衡しているとき、国債残高は長期利子率と同じ割合、Y%で増加します。

基礎的財政収支が均衡していて、しかも、このY%が名目成長率と同じX%であれば、つまり長期利子率が名目GDP成長率と等しければ国債残高の増加率は、名目GDPの成長率と同じ割合で増えます。

この場合には、国債残高÷名目GDPを一定に保つことができます。そしてこれは税収に占める利払い費の割合が一定であることでもあります。つまり、財政は持続できるのです。

くどいようですが、整理しておきます。

基礎的財政収支が均衡していて、しかも、長期利子率がGDP成長率と等しければ、税収に占める利払い費の割合が一定となり、財政は持続できるのです。

注意しておいていただきたいのですが、基礎的財政収支の均衡という条件と長期利子率がGDP成長率と等しいという条件はセットです。同時に満たされたときには、財政は持続可能です。

しかし、早々都合良く両方の条件が同時に満たせるとは考えられません。では、

どちらか一方が満たされなかったときは、どうなるのか?

教科書には、あまりでていないようです。私の知っている範囲では、なので、あるいは私が知らないだけかもしれません。

これを次回に取り上げます。

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