雇用保護 その6

雇用保護 その5」の続きです。

裁判官の判断の基礎になっているのは、ある意味では常識です。

このような裁判は、私の知る限りでは雇用契約や労働契約に整理解雇の条件が定められていないときに行われています。仮に、労働協約で、整理解雇をできる場合、その時の対象者の人数の決め方、具体的に解雇される労働者を選定する方法、退職者に支払われる退職金、社宅からの退去期限などが定められていたら、それが公序良俗に反さない限り有効ですから、これに従って処理されます。仮に裁判になったとしたら、その具体的適用方法の是非ですから、労働協約が基準になります。

労働契約や就業規則があるときも、全く同様で契約がきちんと履行されているかどうかを基準に裁判を行うことになるでしょう。

しかし、問題は長期雇用の場合、将来の環境変化の幅がありすぎてこういった条件を予め決めておくことが難しいことです。何が起こるかも分かりませんし、金銭の価値も変わります。その時、簡単に転職できるかどうかと行った問題もあります。

この点について、解雇の金銭解決の金額を事前に決めておくことは難しいと考えられているようです。実務かである労務屋@保守親父さんが、「平常時に整理解雇を念頭に解決金を協定するというのは机上の空論でしょう。」とまで、書かれています。http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20050908

もしそうであれば、これは法律で決めるときも全く同様です。事前の決定が不可能なのであれば、そのときどきの状況に合わせて、個別に労使で交渉するなり、仲裁を求めるなり、裁判に訴え判決を得るなり、和解をするなりする他かないのではないかと思います。

ただ、私は場合によっては解雇が合理的か、その時の退職の条件を決めておくことは不可能ではないと考えています。

例えばこんな場合です。銀行、証券会社、放送局などその典型でしょうが、事業を営むために免許が必要な場合があります。また、独立行政法人になった国立大学のように設置根拠が法律で決まっている場合もあります。このような例の場合免許を失ったり、法律で廃止が決まれば、解雇は合理的でしょう。これを「合理的なもの(やむを得ないもの)」と労使で決めておくことは可能です。その場合の退職金の割増率を決めておくのは、可能でしょう。必要があれば、何年かに1回労使交渉で変更することも可能です。

現実の例としては、意外に思われるかもしれませんが、国家公務員の例があります。定員の削減、組織の改廃のために辞めさせる場合の退職金は普通の場合の20%増しと決められています。国家公務員退職手当法第5条です。http://www.houko.com/00/01/S28/182.HTM#s2労使で話し合って決めたものではないので、この率は参考にはなりませんが。

さて、本論に戻って、そのときどきの状況に合わせて解決を図っていくとき、環境と並んで重要なのが、企業と労働者の間で雇用の継続性についてどの程度の合意があったかです。

雇い入れのときにどんな話をしたか。

経営が悪化したときに、「雇用は守るから賃金の引き下げなどに応じてくれ。」と言われて受け入れたのに、その後、「やっぱり解雇する。」といわれたのでは労働者は納得できないでしょう。

「正社員なんだから(雇用は保障するんだから)、・・・」とさんざん無理をさせたあげく、「解雇する」ではたまりません。このような事情は、解決の条件に反映されるでしょう。

さて、ここで問題になるのが、有期雇用です。有期雇用の場合には、使用者は長期雇用を保障したつもりはないでしょう。契約期間が終了すれば、更新しないのには何の問題もないと考えているでしょう。むしろ自由に契約をうち切れるように、そのような制度を作っているという企業もあるでしょう。一方、繰り返し契約を反復した場合には、労働者がある程度の期待を持つのは不思議ではありません。

次回は、この問題を取り上げるつもりです。

人気blogランキングでは「社会科学」の53位でした。クリックしていただいた方、ありがとうございました。↓クリックをお願いします。

人気blogランキング