現在の需要が将来の供給を決める

総務省住民基本台帳に基づく人口調査を発表しました。

http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/050727_3.html#s1

今年3月末の総人口が去年に比べて0.04%しか伸びていないというので、人口減少が始まるのが

目の前に来たと話題になっています。

生産年齢人口が減ったというので、労働力不足も懸念されています。

これからの若者は仕事を見つけられるか? その4」で「「人口の変動に伴う供給の変化にあわせて、需要の方を管理する必要があるだろう」と書いたのですが、今後人口が減っていくなら需要管理の必要はないのでしょうか?

多分違うと思います。なぜなら、現在の生産物への需要が将来の労働力供給を決めるからです。

ちょっと変に聞こえるかもしれません。似た例を挙げて、説明します。

今、製造設備が十分ある産業が、長期の不況に陥ったとします。石炭、繊維、造船、鉄鋼など多くの基幹産業で経験されたことです。このような場合、しばしば設備の廃棄が行われました。設備は、原材料とは違って、長期的に使われるものですから、一旦削減されれば、将来にわたって供給力は削減されます。供給力を回復するためには新たな設備投資が必要です。

逆に、現在、需要不足があり、積極的に投資が行われれば、供給力は増加します。

つまり、現時点での需要が、将来の長期にわたる供給力を決めているわけです。

では、労働力の場合どうなのか。

現在の労働力の需要が、将来の労働力供給を決める回路としては、出生や死亡を通じた人口事態の変化を通じたルート、教育を通じたルート、労働力の質を通じたルートがあります。ほかにもあるかもしれません。極端なルートとしては不景気で仕事を失ない、生きる意味を失った男性労働者の自殺というものもあります。

「成人男性の絶望感が社会を引き裂く?」について」について」をご覧下さい。

労働力の供給の場合には、数と質の両方が大事です。数はある程度、人口などから決まってきますので、現在の需要とはあまり関係がありません。質はそうではありません。

労働力の質を決めるのは、健康度、教育程度、そして経験です。この経験は、働くことによって得られるものです。経験を積むことによる質の向上は、長い間働いてきた方が、若いときの自分と、今の自分を比べれば実感できると思います。

そして、労働者が経験を積むには働かなくてはなりません。生産というと、ものやサービスを作ることですが、同時に経験を積んだ労働者も作り出しているのです。一種の副産物なのですが、この副産物は販売することはできません。

このため、現在どれだけの生産活動を行うかは、もっぱら生産物への需要によって決まってきます。

現在の生産物への需要が多いと、労働者が経験を積むことができます。質まで考慮すると労働力は増加します。逆に、現在の生産物への需要が少なく、労働者が経験を積むことができないと、将来の労働力は質の悪いものになってしまいます。

多くの若者が失業、ニート、フリーターを続けていると、彼らの労働者としての能力はあまり向上しません。少なくとも、企業はそのような経験を評価していません。ご関心の向きは

ニートはすくわれるか? その4」をお読み下さい。

つまり、現在の生産物への需要の不足が現在の生産規模を小さくし、生産規模の小さいことはとりもなおさず労働者が経験を通じて能力を高める機会の不足であり、その結果が将来の労働力の不足をもたらすのです。

将来の労働力の不足は、国民全体の将来の生活水準の最大可能な限度を低くしてしまいます。

この面からも、需要の管理は必要なのです。

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