切実な求めと有効需要

しばらく前に、平成16年度のサービス業基本調査の速報が発表されました。

http://www.stat.go.jp/data/service/2004/sokuhou/gaiyou/youyaku.htm

今回の調査結果の目玉は、高齢者福祉関係の事業所と従業員の急増でしょう。

前回の平成11年の比べると、「社会保険社会福祉・介護事業」の事業所は、19,000事業所、49.7%の増加です。

この中でも「老人福祉・介護事業(訪問介護事業を除く)」が、8,000事業所、81.6%の増加。

訪問介護事業が含まれる「その他の社会保険社会福祉・介護事業」が、7,000事業所156.8%増加となっています。

当然のことながら、従業員も増加しています。「社会保険社会福祉・介護事業」では、63万7千人の増加です。平成11年度平均の完全失業者が320万人、16年度平均は308万人で、12万人減っています。もしここでの増加がなく、完全失業者になっていたとすると、完全失業者は52万人増加になっていたことになります。64万人というのは馬鹿にはできない数字です。

さて、このような増加は、介護保険制度の導入がもたらしたものであることは疑いがありません。これまで公的機関に雇用されていた、それもそれなりの水準の待遇で雇われていた方が職を失ったと言うことはありますが、雇用全体として増加したこと、そしてサービスの供給が増加したことには変わりがありません。介護保険料を徴収されることになった方が消費を抑制したという可能性はあり、この面で雇用の縮小はあっただろうと思いますが、それでも介護保険制度の導入が日本全体では雇用の拡大につながっただろうと思います。

これはある意味では不思議なことです。介護保険制度により、様々な規制が行われています。また、介護保険料の分だけ国民負担は増加しているのです。規制緩和に逆行する、公経済の拡大そのものです。

なお、誤解があるようですが介護サービスを提供すること自体にはこれまでこれといった規制はありませんでした。公的なサービス提供はありましたが、その量は限られており、そのサービスを得られない方をマーケットとして、事業を営むことは自由にできたのです。

では、何故、規制拡大、国民負担の引き上げが雇用の拡大につながったのでしょうか?

いくつかの理由が考えられます。

まず、利用者が支払うサービス価格のかなりの部分が保険で賄われるようになりました。これはサービス価格の引き下げであり、支出をしたいと考えている家計への所得の再配分でもあります。

次に、利用者の側から見てサービスの質の保障が行われるようになったことが上げられます。

逆に、事業者から見ても、きちんとサービスを提供すれば、確実に料金を払ってもらえることになった(支払いを受けるための手続きは煩雑ではありますが、)という点が大きいでしょう。

そして、もう一つ、このような公的な制度ができることにより、親の介護を人に任せることが恥ずかしいことではないという意識ができたこともあると思います。

そして、現在、批判があるとはいえ、この制度を廃止せよという主張は聞こえてきません。国民に受け入れられたと言っていいでしょう。

基本にあるのは、介護サービスを国民が切実に求めていると言うことです。

適切な規制と国民負担の引き上げにより、このような切実な求めを、お金の裏付けのある市場での需要(有効需要)に変化させたことが、サービスの拡大、雇用の増加につながったと言えます。

市場に任せておけば、それですべての問題は解決する、問題は規制が多すぎることだ、国民負担は何が何でも引き下げなければならない、というものではないのです。

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