育児保険 その2

育児保険 その1」で、保険料を支払わない人に給付をしない仕組みが必要であるということを説明しました。今回は、給付の問題を取り上げます。

子育てに対する給付には、理論的には児童手当などの現金給付と子育てに必要なサービスやものを給付する現物給付があり得ます。

坂東さんの提案は現物給付なので、まず、この線に乗って考えてみます。現物給付を選ぶこと自体に問題はありますが、これは後で考えます。

「保険料を払わない人には給付しない。」ようにするためには、給付するとき保険料を払っていることを何らかの方法で証明しなければなりません。というと複雑なようですが、医療で皆さんおなじみの保険証の提示です。

まず、国は保険証を発行しなければなりません。これにはコストがかかります。1年ごとの更新も必要です。

次に、提示されたサービス提供者は保険証を基に、どの加入者に何をどれだけ給付したかを記録し、国に支払いを請求しなければなりません。坂東さんは交通機関の子供運賃を6歳まで無料、18歳まで半額にすることを提案されています。これ自体はいいことなのかもしれませんが、鉄道の駅で切符を買うごとに保険証を見せるということになります。バスなどはどうやって記録を取るのでしょう。これはサービス提供機関に非常に大きな負担を強います。

保育サービスを提供する場合も同じで、サービス提供者は相当な事務処理をしなければなりません。介護保険でも大変だったのですが。事務コストは膨大です。

もう一つの問題は、「どのようなサービスの提供をを保険の対象とするか、その価格をどうするか」を決めることです。医療、介護でも一定の枠を定めています。坂東さんは、「より多様で創意に満ちたサービスが保険では可能である」と主張されていますが、それなら、給付対象をどこまでにし、それをいくらと認めるかを決めなければなりません。具体的には民間から新たなサービスの提案があるごとに、それを保険給付として認めるがどうか、それをいくらと評価するかを国が決めるということです。保険点数の決定です。これは市場ではなく、国による価格と供給の決定で、これまたコストがかかります。

さらに、別な問題としてサービス供給主体を国が選ばなければなりません。いい加減なサービスを提供したりきちんとした事務をするようなところでないととんでもないことが起こります。医療、介護とも不正な請求は後を絶ちません。

なお、坂東さんの提案では税金と保険料の合計が給付と同額(7.4兆円)ですから自己負担はないと考えられます。ただなのですから、サービスの質が悪くても市場による淘汰はあまり働かないと考えられます。また、ただなのですから過剰に給付を受ける人が続出するおそれもあります。給付の上限を決めないと膨大な財源が必要になるでしょう。一方家庭の状況によって必要度が違うのですから皆が納得するような上限決定は難しいでしょう。そのコントロールも大変複雑です。

現物給付という路線を取る限り、これまで書いてきたような問題は避けて通れません。そしてこれらの問題のほとんどは現金給付、つまり児童手当の拡充にすれば回避できます。

どうも私にはよく分からないので、誤解しているのかもしれませんが、坂東さんは現金給付が不適当な理由として「現金給付をするなら月3万円以上でなければインパクトは少ない。」と書かれています。また、「対象」は「12歳未満の子供1400万人」とされています。坂東さんご提案の給付総額は7兆4千億円ですすから、これを1,400万人で割ると一人あたり年約53万円、月4万4千円です。坂東さんのご意見に従えば、十分インパクトがあります。制度の管理費用が安いことを考えるとこちらの方が、ずっといいはずです。

さらに加入強制、徴収のこと考えれば、社会保険ではなく税金で処理した方が簡単です。1.2兆円だけなら消費税であれば0.5%程度で済むはずです。

長くなってしまいました。残る問題は、次回ということにします。

昨日の記事で「坂東」さんを「板東」と間違って書いてしまいました。お詫びします。

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