育児保険 その1

4月6日の日本経済新聞に掲載された、坂東真理子さんの「保育サービス抜本拡大」について労務屋@保守おやじさんが好意的な意見を書かれています。坂東さんのご提案の内容もがうまく要約されています。

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20050407

私は、坂東さんの主張されている「保育サービスの拡大」そのものには反対ではないのですが、ご提案の「育児保険」という社会保険制度導入については懐疑的です。

まず、そもそも論なのですが、「社会保障制度」は、相互扶助の仕組みで、「加入して保険料を払う人に対して、給付を行う。」ことが基本となっています。相互扶助ですからフリーライドは認められません。

これは具体的には、「保険料の支払いなくして給付なし」でもありますが、同時に「給付の可能性がないなら保険料の徴収はない」ということでもあります。給付の可能性のないひとを強制加入させることは、給付の可能性のある人が部分的にせよフリーライドする事になるからです。

この原則が守られていれば、給付に見合った保険料の引き上げは、一応納得を得られるということになります。消費税の導入、税率の引き上げは大変ですが保険料の引き上げはそれほどでもないことを、労務屋@保守おやじさんがコメントされています。それは、この仕組みがあるからです。

いったん「保険料を払ったらそれに見合った給付がある」という信頼が崩れたら、制度を作っても保険料を徴収できなくなります。これは、最近の国民年金の惨状を見ても明らかです。

さて、このように考えると、成人国民から月1,000円保険料を徴収して、保育サービスを現物で給付するという構想に無理があることは明白です。もはや子供を持つ可能性がなく、給付を受ける可能性のない方、高年齢者のほとんどがそうです、が自主的に保険料を払う可能性はあまりに少ないからです。

自主的な支払いが期待できないなら、強制徴収することはできるでしょうか。

厚生年金、共済年金の保険料を払っているサラリーマン本人からはかなりの程度徴収することができるでしょう。いつものことながら、もっとも取りやすいグループです。しかし、配偶者分の徴収は理論的にも無理な気がします。配偶者の義務を強制的に肩代わりさせることになるからです。

国民年金の保険料を支払っている方はどうでしょうか。今でさえ大変で、今後引き上げられる予定になっていて心配なのに、さらに1,000円の上乗せ、しかも給付はあり得ない人もいるわけですから、相当悲惨な状況になるでしょう。下手をすると今まで払っていた方まで逃げ出すかもしれません。

年金受給者はどうか。これは天引きで徴収すればいいかも知れません。ただし、年金額が低いグループにとっては、相当な打撃です。国民年金に25年だけ加入していた方の年金額は約50万円ですから、年額1,2000円といえども負担感は大きいでしょう。実際には制度未成熟でもっと少ない金額しか受け取っていない方も大勢いらっしゃいます。

強制徴収できそうなのは、これぐらいです。無年金の高齢者、国民年金に加入していない方からはとうてい徴収できそうにありません。無理に徴収しようとすれば、膨大なコストがかかるでしょう。保険料を払わない方がでるのは必至です。

従って、保険料を払わない人に給付をしない仕組みを用意しなければなりません。給付してしまったら正直者が馬鹿を見ることになりますし、そんなことになったら自主的に払う人がいなくなってしまいます。

ついでですが、裁判になったとき「給付の可能性がない自分から保険料を徴収するのは違憲」と主張されるおそれがあります。勝てるでしょうか。

ではどうすればいいのか。実は簡単です。

坂東さんの案では保険料収入は1.2兆円、税金は6.2兆円です。そして給付の中に「乳幼児医療無料化」が1.3兆円となっています。

それなら、乳幼児の医療の自己負担をゼロにして、保険料を引き上げ、医療保険に税金を1,000億円だけ投入すればいいのです。徴収はこれまで通りの仕組みで行えばいいのですからコストは最小で済みます。医療という給付があるのですから、子供のいない方も脱退することはありません。不妊治療も保険の対象にすれば、なお説得力が増すでしょう。

後の部分は税金でまかなえる額なのですから、遠慮なく税金を投入すればいいのです。

では、なぜ、坂東さんはそう提案しないのか。それは単純で、「税財源だとどうしても所得や必要度による制限が避けられず、量的な拡大にも限界がある。」と板東さん自身書かれています。つまりこの提案は、財源がほとんどが税金であるにもかかわらず、ごくわずかな保険料を徴収することにして、この制度に社会保険という衣を着せ、それによって様々な制限をすり抜け、量の拡大も図るという構想なのです。

他のも問題がありますので、続きを書きたいと考えています。

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