子育ては1億8,000万円の損? その2

前回のエントリで、子育ての費用とは考えにくいと書きました。なぜか。

前回の例で、働き続けた場合として挙げた例は、賃金構造基本統計調査を基礎にしていますが、別に子どもがいない女性だけを調べたものではありません。女性が結婚して退職し、5年たったところで子どもがいないので、パートタイムで働き始めることもあるでしょう。

二つの例をこう読み替えたらどうなるでしょうか。短大を出て結婚し、子どもができたが、夫が死亡したのでずっと働き続けた女性の49歳までの総収入は、1億1,944万円。結婚して退職し専業主婦をしていたが子どももいないので、少しは働こうと思って、パートに出た女性の49歳までの総収入は2,060万円。

子育て費用は、マイナス9,884万円?子育ては、9,884万円の得?!

これは極端な例だと思われるかもしれません。しかし、母子家庭の母が稼ぐ必要に迫られ、実際に働いている割合はとても高いのです。あり得ないケースではありません。

実は、私には短大を出た子どものいない女性が同じ会社で60歳まで勤め続ける例と子どものいる女性がパートで働くのを比較して、子育て費用を計算するというのも、相当極端なやり方だと思えます。

まず、この雇用の不安定な時代に40年間勤続できるというのは、働く意欲がとても強く、しかもすごく有能な方か、幸運に恵まれた方でしょう。働く意欲が高い背景には働かなければならない事情があると考えてもいいでしょう。

それなら、この女性が子どもができて退職し、5年後に働き出す例でも、「働く意欲がとても強く、しかもすごく有能な方か、幸運に恵まれ」ていると考えなければなりません。そうでないと子どもがいること以外の条件が同じになりません。ほかの条件を変えて差が出たとしたら、その差は子どもがいることだけによる差ではなく、ほかの条件が違うことで生じた差も含んでしまうからです。そのような差は子育ての費用とは言えません。

そこで、次のような例を考えてみました。子どもができて退職したが、、「働く意欲がとても強く」、5年後に働き始めようとし、「しかもすごく有能」であるか、「幸運に恵まれ」ていたので、フルタイムで働くことができ、同じ会社でずっと勤め続けることができた。

これに当てはまる例を、前回と同じように賃金構造基本統計調査から選び出しました。

25歳から29歳までは働かず、30歳から働いたと計算します。勤続年数は前回の例より5年減ります。すると、こんなことになります。データをご覧になりたい方は、前回のエントリからこの表にリンクを張ってありますので、ご利用ください。

30歳から34歳 勤続0年        所定内給与224千円 特別給与 5万円 年収274万円

30歳から34歳 勤続1,2年      所定内給与218千円 特別給与49万円 年収311万円

30歳から34歳 勤続3,4年      所定内給与234千円 特別給与60万円 年収341万円

35歳から39歳 勤続5年から9年   所定内給与267千円 特別給与85万円 年収405万円

40歳から44歳 勤続10年から14年 所定内給与279千円 特別給与97万円 年収432万円

45歳から49歳 勤続15年から19年 所定内給与301千円 特別給与98万円 年収460万円

25歳から29歳までは働かないので収入は0とします。すると、25歳から49歳までの総収入は8,059万円になります。これと就業を中断しなかった場合の同じ期間の総収入1億1,944万円と比べると、3,885万円となります。30歳から49歳までパートで103万円とした場合の差額は9,884万円でしたから6,000万円ほど違います。

この3,885万円の方が「働く意欲がとても強く、しかもすごく有能な方か、幸運に恵まれ」ている女性が働き続けたときと子供を産んだときの収入の差、子育て費用としては、現実味があるでしょう。

それでも問題は残ります。「働く意欲がとても強く、しかもすごく有能な方か、幸運に恵まれ」ている女性が子供を産んだとき、働き続けるという可能性があるからです。この場合は子育て費用はゼロです。

女性の働き方は様々です。先ほどの表で、女性労働者、短大卒、45歳から49歳というグループをとってみると、フルタイムで働いているのは14万4,420人です。

これを勤続期間別に分けて、数の多い方から並べると

5年から9年   2万8,070人

10年から14年 2万6,620人

25年から29年 2万5,040人  長期勤続のグループです。

1,2年      1万5,790人

20から24年   1万5,140人 

卒業後、すぐ結婚、出産して、25歳から働き始めるとここに当てはまります。

15年から19年 1万2,310人 

25歳から29歳まで休んで、30歳から働き出すとここになりす。

3,4年       1万2,120人

0年            8,770人

長期勤続グループは、最大勢力ではありません。そもそも、極になるようなグループが存在しないのです。0年,1,2年3,4年をあわせると全体の4分の1になりますが、このグループ40歳を越えてからフルタイム労働者として、採用されています。いったん辞めるとパートしかないというのも正確ではないのです。

こうしてみると、モデルはいくらでも作れそうです。そしていくら作ってみても、多数派を示すモデルは作れません。

モデルを考えて子育て費用を計算するというやり方では、モデルの作り方、仮定の置き方によって子育て費用は、どんどん変わってしまうのです。しかも、どのモデルも女性の生き方を代表するものにはなりません。

女性が子供を産むかどうかを決めるのにこういうものを基準にするのはどうかと思うのですがいかがでしょうか。

まして、大した根拠もない2億円と2千万円という説が女性の間で一人歩きして、それが若い女性の生き方に影響を与えるなどとんでもないことだと思います。

次回、もう少し考えてみたいと思います。

おまけです。30歳から働き始めた女性の続きはこうなります。

50歳から54歳 勤続20年から24年 所定内給与335千円 特別給与135万円 年収274万円

55歳から59歳 勤続25年から29年 所定内給与364千円 特別給与136万円 年収274万円

30歳から59歳間での総収入は、1億3,602万円になります。

    

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