児童手当 その4

 今回は、企業の賃金体系への影響を考えてみます。

 広く支給される高額の児童手当が導入されれば、企業の労使関係者はどのような反応を示すでしょうか。ここでは、労働組合があるような企業の正社員を対象に考えます。

 

 このような手当ての創設は、子育ての経費のかなりの部分を国民全体で負担するという社会的な合意ができたことを意味します。

   

 賃金には社会的に見ていろいろな役割があります。企業の労使にとっては、正社員の賃金は生産、企業活動への貢献に対する報酬という面と労働者の生計費の源泉という機能を兼ね備えています。生計費に対する社会的な手当てがなされていませんでしたから、賃金から生計費保障という側面をなくすことはできなかったのです。

 ここで社会的な手当てがなされるわけですから、賃金は生産活動への貢献という機能に純化していくでしょう。企業は、子育て費用の負担を減らしてもいいと考えるでしょう。また、組合もそれを受け入れるはずです。国と企業から二重に支給を受けるのは、不合理ですから。 

 すると、まず、これまで子供がいる労働者に企業が払ってきた子供を対象とする家族手当は、削減され、いずれ例外的なものになるでしょう。

 

 おそらく、影響はこれにとどまりません。年功序列型賃金が修正されてきたとはいえ、かなりの企業で名目はともかく実質的には本給の中に家族の生計費、特に子育ての費用を見る部分が含まれているからです。

 昔から、子供がいなくとも本俸の中で子供費用が手当てされていたわけですから、潜在的には無理があることはあったのです。しかし、以前は、ほとんどの正社員が結婚し、子供を持ってきたのでその無理は覆い隠されてきたのです。最近では話が違ってきていました。未婚化、晩婚化、少子化の波が襲い、標準的ではない世帯が増え、既に企業内でも無理が目に付くようになってきていたのです。

 したがって、このような手当が導入されれば多少時間はかかるでしょうが、労使の合意の下に賃金の純化の方向に流れていくのは確実だろう、私はそう思っています。労使にとって、これまでの賃金体系が抱える矛盾を解消するいい機会になるでしょう。この意味では、このような手当の創設は、たとえ消費税の引き上げを伴うものであっても、企業の労使関係者にとっては受け入れやすいものではないかと思います。日本経団連奥田会長も新年スピーチhttp://www.keidanren.or.jp/japanese/speech/20050101.htmlで「税制、財政、社会保障の一体的改革」への取り組みを訴え、少子化対策の充実と「消費税を基幹税として拡充する」こと、「少子化地策の充実を図る」ことを主張しているのですから、使用者側には受け入れの素地があるように思われます。

 もし、このような方向に進んでいくなら、浮いた賃金原資を何に使うのか、どのように配分するのか、これが手当が導入された場合の労使の課題になるでしょう。賃金体系をフラット化した上で成果配分的な部分を増やすのか、あるいは65歳までの雇用継続に使うのか、若手社員の訓練に使うのか、労使関係者の知恵の絞りどころでしょう。

 そして、このような賃金体系の変更は組合がないような企業の正社員にも波及していくでしょう。

 労務、人事、組合関係者のご意見はいかがでしょうか。

 またしても、長くなってしまいました。次回は、企業の外での影響を考えてみようと思います。