なぜ雇用は改善し続けているのか?人的資本の生産が増えているから?

なぜ雇用は改善し続けているのか?」で、生産活動は停滞しているのに雇用はなぜ拡大しているのかという問を立てたのですが、ラスカルさんも同じような問題意識をお持ちのようで、「真の失業率-2015年8月までのデータによる更新」で、「雇用にはこれまでの傾向を超え、需要を超過した強さがみられた(労働投入量でみても同様)。足許の需要面での弱さに対し、こうしたストック面の強さをどう解釈すべきかは、引き続き分析上の課題である。」と書かれています。 ひとつの回答、希望的観測に基づく回答のような気がするのですが、は労働投入を財やサービスの生産ではなく人的資本の生産のために用いているからだというものです。 職場を離れての教育訓練、OFF-JTを行えば、労働者は働いたことになり、統計上は労働投入が行われたことになります。しかし、労働者はその間生産に携わらないので、労働投入は行われても財やサービスの生産量は増えません。教育訓練は何も生み出さないのではありません。人的資本が増えていきます。つまり、企業は、教育訓練に労働を投入して、人的資本の生産を行っていることになります。 OJTに費やされた時間は、教える側のものも、教えられるものの側も統計上労働時間になります。ホワイトカラーであれば、部下が書いてきた文書を上司が読んで、ここが適切でないから書き直せといった指導をして、文書の作成方法を教えるといったケースがあります。実は、上司が自分で書き直してしまったほうが早いし、手間も省けるとしても、部下を育てるためには修正をさせなければなりません。同じ書類を作るのに、上司の労働時間も部下の労働時間も余計にかかる、それだけを見れば無駄が発生しているのですが、部下の能力は高まります。(場合によれば上司の能力も同時に高まっているかもしれません。人を教えるのは、自分を教えることになることも多いでしょう。)ここで費やされた労働時間は、人的資本の生産に投入されているのです。工場で設備の不具合が起こったとき、ベテランが一人で行って直してしまえるのに、わざわざ若いものを連れて行って、一緒に直す、その過程で若い労働者に技能が伝承されるといったケースもあります。この場合も、労働時間の一部は人的資本の生産に用いられてると考えることができます。新人にはON,OFF両方の訓練が集中的に行われます。彼らはあまり財やサービスの生産に役立たず、場合によれば足を引っ張ったりもするのですが、それによって人的資本は蓄積されていきます。 このように、統計上の労働時間は財やサービスの生産と人的資本の生産に用いられるものの両方を含んでいます。人的資本の生産に用いられる割合が高ければ、統計上の労働投入が増える割には、財やサービスの生産が増えないという現象が起こりえます。 問題は、本当に人的資本の生産が増えているのか、そして増えているとすれば、なぜ、企業がそのような行動をとり始めたのか、この二点です。 (続く) 人気blogランキングでは「社会科学」の10位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング