複民族国家

単一民族国家や多数民族国家という表現は、二項対立的な概念として市民権を得ています。多数民族国家というと、単一民族国家ではない国家すべてを指すものとして使われている様です。私は、長い間、これらの概念ではうまく説明しきれない現象を見て、複民族国家という概念を考えてきました。一般に言われている多数民族国家の中で、人口でみて主要な民族が二つか三つある国家を考えています。アジアでいえば、マレーシア、スリランカなどが、ヨーロッパではベルギー、キプロスなどが該当するでしょう。 ここでは、塩川伸明氏が、著書『民族とネイション』で使われているエスニシティを民族と考えています。氏の定義ではエスニシティは「血縁ないし先祖・言語・宗教・生活習慣・文化などに関して、『われわれは○○を共有する仲間だ。という意識が広まっている集団」です。 このような国家にとって、複数のエスニシティに「われわれは一つの国ないしそれに準ずる政治的単位を持つべきだ」という意識が広がることは様々な問題をもたらします。典型的なのは、あるエスニシティで独立を目指す運動が始まり、政治的緊張が高まることです。完全に独立が困難な少数の民族であれば、このような動きは発生しにくいでしょうが、ある程度の割合、2割、3割などになればこのような問題は発生しやすいでしょう。もっと低い割合でも人口自体が大きければ同じ問題が発生する可能性があると思います。なお、塩川氏はこのような意識を持つにいたったエスニシティを民族とされています。 さらに複雑なのは、エスニシティを共有する集団が国境をまたがって存在する場合です。国内での紛争ではなく、外国を巻き込んだ紛争が始まる危険性があるからです。 このような、紛争を予防するためには、国民がどのエス二シティに属していても政治的、経済的、社会的に不利な立場に立たされることのないよう国家が保証することでしょう。完全に同じとはいかなくても、著しい不利が生ずるのは避けることができるはずです。 これなくして、国内での紛争を防ぐことは難しいでしょう。もっとも、これを実行したからと言って、紛争が起こらないとは限らないのですが。 外国でこのような問題が起こった場合には、安易に、特定のエスニシティに肩入れするのではなく、このような方策の実行をすべてのエスニシティに求めていくことが大事だと思います。 人気blogランキングでは「社会科学」の22位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング