「再生可能エネルギーの買い取り価格」について

再生可能エネルギーの買い取り価格」に,500drachmasさんから、次のようなコメントを頂きました。貴重な情報を提供していただきありがとうございます。

調達原価算定委員会の資料

http://www.meti.go.jp/committee/chotatsu_kakaku/pdf/006_02_00.pdf

3ページ目の一番下に電源ごとの利益率を変えた理由が書いてあります。

地熱発電のIRRが13%と高い理由については以下に説明があります。

http://www.meti.go.jp/committee/chotatsu_kakaku/pdf/006_03_00.pdf

電源ごとに異なるリスクがあるので、「IRRの高い電源だけが普及する」とはならないと思われます。算定価格の妥当性には議論のあるところでしょうが。

この資料の関係部分を、引用すると次の通りです。

既に固定価格買取制度を導入した国では、電源に関わりなく、一律のIRR設定が行われている国があるが、我が国においては、同じ再生可能エネルギーといえど、電源ごとに異なる各事業固有のリスクが存在することに鑑み、異なるIRR設定を行うこととした。具体的には、太陽光発電にやや低め、地熱発電にやや高めの設定とすることとした(参考1)。さらに、住宅用や他の事業に付随して実施される事業等については、リスクが通常の発電事業に比して小さいことから、IRRは更に低く設定することとした。

前置きとしてIRRの説明をしておきます。

IRRというのは内部収益率のことです。

事業を始めるときには、投資のコストと将来得られる収益を予想します。投資のコストが同じで、将来得られると予想される収益が大きいプロジェクトと小さいプロジェクトがあれば、当然、将来収益が大きいプロジェクトが優良なプロジェクトです。

投資コストが100としましょう。得られる収益が1年後に110であるプロジェクトAと、2年後に118.8であるプロジェクトBがあるとします。収益だけを見れば、プロジェクトBのほうが大きいですが、投資してから収益が得られるまでの期間が違うので、単純に収益の大きさだけを比較しても意味がありません。どうして比較したらいいでしょうか?ここで使われるのがIRRです。

たとえば、あるプロジェクトについて、ある割引率で収益を割り引いて、現在価値を求めると、投資コストと等しくなるとします。この割引率がIRRです。

プロジェクトAなら年率10%で収益を割り引くと、収益110÷1.1(これは1+割引率です)=100となる、投資コストと同じ額になります。したがって、プロジェクトAのIRR(内部収益率)は年率10%です。

プロジェクトBで年率で計算すると、118.8÷1.09÷1.09≒100ですから、このプロジェクトのIRR(内部収益率)は年率9%です。プロジェクトAと同じものを作っているなら、生産量が1%少ないため、収益が少ないと考えればいいでしょう。

もし、年率9.5%で借り入れが可能なら、借り入れてプロジェクトAは実行すべきですが、プロジェクトBは実施すべきではありません。

IRRを用いると、さまざまなプロジェクトを評価し、実行すべきものとそうでないものを区別できます。

次にリスクの差のあるプロジェクトの評価を考えます。

プロジェクトCを考えます。投資コストが100とします。生産が予定通り行われ得られる収益が1年後に105である(Aよりも5%少ない)確率が50%、生産量が予定の量に達せず(Aより10%少なく)収益が100である確率が50%であるとします。先のプロジェクトAは1年後に確実に収益が得られるとしましたが、今回はリスクがあります。当然、プロジェクトAのほうが望ましいプロジェクトです。どちらかを実行するならプロジェクトAです。

このことをIRRを使って示すことができます。プロジェクトCの1年後の収益は平均すれば102.5です。(105+100)÷2=102.5ですから。この場合、プロジェクトAのIRR(内部収益率)は年率2.5%です。プロジェクトAの内部収益率10%と比べると、4分の1なので、通常、プロジェクトAが優先して実施されます。先のプロジェクトBと比較してもプロジェクトCは劣っていますから、プロジェクトCを実施するよりもプロジェクトBを優先して実行すべきです。

さて、プロジェクトAとプロジェクトBが風力発電であり、プロジェクトCは太陽光発電であるとしましょう。すべて、100万KWの発電量だとします。もし、国民が200万KWの電力を必要としてるなら、プロジェクトAとプロジェクトBを実施すべきです。

リスクを考慮してIRRを調整するということは、プロジェクトCのIRRを10%にするように電力価格を変えるということです。プロジェクトCのコストは変えられませんから、太陽光発電のプロジェクトで生み出される電力を風力発電のプロジェクトAで生み出される電力よりも7.5高く買い、収益をうまくいった時の収益を117.5、うまくいかなかったときの収益を112.5にしてやればいいわけです。平均すると収益は100で、プロジェクトAと同じになります。内部収益率はどちらも10%です。

あたかも公平に見えるようですが、そうではありません。IRR(内部収益率)10%で、発電方式により価格に差をつけると、プロジェクトBが実行されません。本来なら、プロジェクトCより望ましいにもかかわらずです。確かに同じように200万KWの電力は得られるでしょう。しかしそれは、高い電力料金を払ってのことです。

計算してみましょう。プロジェクトBのIRRを10%にするためには、風力発電で作られた電力の価格をいくらにすればいいでしょうか。2年後の収益を121にするためには、2.2価格を上げる必要があります。これは同じ発電方式のプロジェクトAにも適用しなければなりませんから、この部分も計算しなければなりません。200のコストに対し9%のIRRを保証するのですから、支払うべき額は218になります。

プロジェクトAとプロジェクトCが実施され、プロジェクトCが成功した場合には、100万KW+95万KW=195万KWの電力が発電され、電力料金は110+112.5=222.5です。プロジェクトCが失敗した場合には、100万KW+90万KW=190万KW電力しか得られず、電力料金は110+107.5=217.5です。

プロジェクトAとプロジェクトBが実施されると、確実に199万KWの電力が発電され、電力料金は200×1.09=218です。

明らかに、プロジェクトAとプロジェクトBを実施すべきです。つまりリスクを調整して、IRRが同じになるようにで発電方式により買い取り価格を変えるべきではないのです。

買い取り価格を同じにして、発電量を確保するためには、同じ発電方式のプロジェクトAに支払う価格も上げる必要があるので、場合によっては発電方式によって価格を変えたほうがいい場合もあります。風力発電のプロジェクトの中で効率に大きな差があるとき、そのような事態が起こります。しかし、買い取り価格が2倍というようなケースでそういることがあるのは稀でしょう。

本来、適切な価格差をつけるのには、プロジェクトごとの詳細なデータが必要です。

「算定価格の妥当性には議論のあるところでしょうが。」という500drachmasさんのご意見に賛成です。

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