雪の日の散歩(1)

長く屋内にこもっているのにも飽きてしまった。体調もまずまずだ。少し散歩しよう。雪が積もっているので、スニーカーは無理だ。足ごしらえはしっかりと。目標はちょっと離れたところにある丘の麓。

街の中にも雪が積もっているが、雪は降っていない。でも、丘に向かっている途中で、雪が降り出した。どうしようか?帰るか?まあいい。ここまで来たんだ。フードをかぶって、麓へ進む。

ここは、それほど雪が積もるところではない。でも、さすがに冬で、前に降った雪がかなり積もっている。街中とは違う。そこに新しい雪が積もっていく。雪の上を歩くのも、久しぶりだ。忘れかけていた雪の上を歩く時の足の裏の感触が戻ってくる。気持ちがいい。

ここは、春になると大勢の家族連れがやってきて、子供たちの声で賑やかになるところだが、さすがに今日は誰もいない。独り占めだ。雪のせいで、薄暗い。自分が固い雪を踏む音も聞こえてくるぐらい静かだ。

さっ、さっ、さっ。

誰もいない。

誰もいない。

ん、誰もいないはずなのに。

誰かが私を見ている。視線を感じる。誰だ?どこにいる?

見渡しても誰もいない。降る雪で視界が遮られている。でも、近くは見える。視線は近い。もう一度ぐるりと見渡しても誰もいない。妙だ。

ふと、見上げると、大きなミミズクがこちらを見ている。こんな日に散歩している人間を見て、なんと酔狂なと思っているのかもしれない。餌をやりたいところだが、餌になるようなものは持っていないし、このあたりは動物への餌やりは禁止されている。

互いに見つめあってから、前へ進む。

しばらく進むと、エゾシカの群れを発見。7頭いる。3頭は立っているが、残りの4頭は2頭ずつに分かれて、雪の上にうずくまっている。背中の毛皮の上に雪が少し載っている。うずくまっている4頭の周りは、雪が少し浅い。7頭とも、口を動かしている。反芻だ。この寒さの中、食べていないと体が冷えてしまうのだろう。これが自然なエゾシカの冬の暮らしだろう。

エゾシカには雪がよく似合う。

さらに進む。少し寒くなってきた。冬の日暮れは早い。今度は少し離れたところに5頭のシンリンオオカミを発見。迫力がある。2頭は体が少し小さい。この群れで去年の5月に双子が生まれたと聞いていた。その時に生まれた仔なのだろう。成長が早い。こちらには気が付いているようだが、近づいては来ない。ゆっくり見ていたいが、あまり見つめていて、関心を持たれても困る。

この雪の中で競走すれば私が負ける。静かに離れよう。

しばらく雪の中を進み、緊張が解けた。

突然、エゾヒグマが現れる。

見た瞬間、次々と疑問が湧き上がる。

お前、なぜ起きているんだ?今は冬だぞ。雪も積もっている。お前、なぜおとなしく冬眠していないんだ?

お前、なんだか痩せているな。普通、冬の初めの熊って、脂肪を蓄えてもっと丸々としているもんじゃないか?

そういえば、今年は山にドングリが少なくて、街中にクマが出てきたと聞いた。ひょっとして、お前、お腹がすいているのか?

お前、なぜそんなすごい勢いで、私に向かって突進してくるんだ?

私は餌なんか持っていないぞ。

持っていたって、ここは餌やり禁止だ。

お前、知らないのか?

危ない!ぶつかる!

と思った瞬間、ヒグマ急反転。小高い茂みに戻っていった。もう、見えない。この間、約5秒。

危ないところだった。

(続く)

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