主権者は男尊女卑?

(9月5日 t値を追加しました。)

衆議院選挙と同時に、最高裁判所裁判官の国民審査が行われました。

結果がとりあえず発表され、9人の裁判官の皆さん全員が審査をパスされました。どなたかが辞めさせられていれば、大ニュースでしょうが、予想通りの結果だったので、大きな話題にはなっていません。

しかし、実はこれは日本で最大規模の世論調査なのです。7,000万人近い投票です。総選挙もそうではないかと思われるかもしれませんが、選挙は多数の論点を含む公約の束の争い、政党間の争い、特定の選挙区で立候補した候補者間の争いという多様な側面を持っています。1票の格差もあります。これに対して国民審査は、単純この上ないシステムです。実質的な投票権にも全く差がありません。投票の単位も日本全体単一投票(選挙)区です。論点もただ一つ、特定の裁判官を辞めさせるかどうかだけです。

統計に関心を持つものにとって、このような単純なシステムの大標本は夢のようなものです。この世論調査から、投票権を行使したもの行動が読み取りやすいのです。(投票しなかったものの行動の分析は困難です。)

単純な分析をしてみました。「辞めさせたいと投票した、具体的には裁判官の名前の上の欄に×をつけた方の割合(Y(%))は何によって決まるか?」です。

これを3つの要因から説明することができました。

一つ目は、誠に情けないことですが、投票用紙に書かれていた順番(X1)です。最初の方に名前があると、×をつけられる確率が高かったり、あるいは低かったりするのです。

二番目は、もっとまともな理由で、1票の格差のある選挙を合憲とした判決に賛成したかどうかです。賛成すると×がつくのであれば、この変数の係数はプラスの値になります。

三番目は、桜井判事につけたダミーです。

単純な回帰分析結果は次の通りです。手計算でやったので、間違いがあるかもしれません。あったらご勘弁を。

Y=6.93-0.0998X1+1.11X2+0.134X2

(366.3)  (33.6)   (5.4)

( )の中は、t値です。定数項のt値は省略しています。最も小さい桜井判事ダミーでも1%水準で有意です。つまり、このダミーに効果がないとはほぼ確実に言えないということです。

 自由度修正済みの決定係数は0.999です。あてはまりは非常にいいといえます。

一番目の値は定数項です。X1は投票用紙に名前が書かれた順です。1番最初の方、桜井裁判官を1、最後の方、宮川裁判官を9としています。一番順位が下がると、0.1%ほど×の割合が下がり、辞めさせられる確率が小さくなります。最初に名前を載せられた桜井龍子判事は、罷免を可とする者の割合が3番目に高かったのですが、ご本人のせいではなく、名簿に載った順番が一番だったせいです。お気の毒としか言いようがありません。

二番目は、合憲判決を肯定した場合に辞めさせろという方の割合が1.11%ポイント高くなると言うことを意味します。今回は、「一人一票実現国民会議」が二人の裁判官をやめさせようという運動をしていましたが、ある程度効果はでているのではないでしょうか?9人の×の平均値が6.69%なので、平均値の6分の1です。決して小さな割合とは言えません。

三番目は、桜井龍子判事にだけ関係することです。これは非常に解釈が難しいのです。一つの解釈は女性であるということの影響と読むことです。今回の9人の中で女性は桜井判事だけなのでそういう解釈が可能です。第二の解釈は、名簿の1番最初にあるととりわけ×がつけられやすいというものです。今回の9人の中にもうお一方女性がいらっしゃるとこの二つを分離して効果を見ることができるのですが、今回はできません。

さて、最初の特徴から言えば、どうもいい加減に投票をしているということです。名簿の順序には多分意味はないはず(あればその基準を否定的にとらえていることになります。)で、これは本来、影響しないはずです。公平のためには日本全体を二つに分け、名簿の順序を逆転させておくべきです。

二番目は、まともで、票の格差をおかしいと思っている方がかなりいるということです。

三番目は、解釈困難なのですが、もし、女性であるということに対する反応であるとすると、女性が最高裁の判事になることに否定的な方が、肯定的な方をわずかではあるが上回っている可能性があります。

これがもっと広く女性が高い地位の公職に就くこと、高い地位に就くこと、あるいは社会的影響力のある地位に就くことに対する抵抗なのかどうかはわかりません。

ここをクリック、お願いします。

人気blogランキング

人気blogランキングでは「社会科学」では38位でした。