社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その46

社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その45」の続きです。

3.3 不確実性と資産価格

 もし、「個人間の取引を捨象した代表的個人モデルが、多くの個人が資産市場で活発に取引している経済モデルに正確に対応している」(テキスト123ページ)と「マクロの経済変数のみから資産価格を導出できる。」(テキスト同ページ)代表的個人モデルで、多数の消費者が取引する資産市場の問題を分析でき、総消費と資産価格の間に一定の関係が見いだされ、る理論的な必要条件は何か、が3節以降で取り扱われる問題になります。結論を先取りすると、その条件は次の二つです。

(1) 完備市場(complete market)が機能していること(完備市場とは何かと言うことは後で説明します。)

(2) 市場価格の伝達機能によって投資家の情報格差がならされていること

 (1)の完備市場の問題が、「将来の状態がどの程度の確率で実現するかについて消費者間で意見が一致していることと仮定して」、テキストの「3.3 不確実性と資産価格」で取り扱われ、次に、この仮定を外すした場合に起こる(2)の資産市場の情報伝達の問題が「3.4 資産市場と情報の伝達」取り扱われています。「3.5 資産価格決定モデルの実証分析」ではこの二つの条件が実際に満たされているかどうかが検討されている。アメリカなどの実証分析では、必ずしも代表的個人モデルが支持されていないのです。

3.3 不確実性と資産価格

3.3.1 不確実性の導入

完備市場が機能しているという条件を明確に定義するためには、不確実性(uncertainty)という概念が不可欠です。というよりも不確実性があるから、完備市場が必要になるのです。

 一般に、不確実という場合に、将来何が起こるか分からないということなのですが、これを二つに分けることが可能です。一つは、何が起こるかいくつかの可能性があって、そのどれかが起こることは分かっているけれども、そのどれが起こるか分からないという場合です。テキストで扱われているのは、この不確実性です。台風が来るか、こないか、豊作か、不作かそれぞれ二つの場合が考えられます。このような現象は、何回も繰り返し起こっている事柄であり、その経験からいくつかの可能性があることが分かっており、おそらくはその確率もある程度判明しています。

テキストから離れてもう一つは、何が起こるのか全く分からないという場合です。この二つをケインズは区別していて、『確率論』で前者をimprovable 後者をuncertainと形容していました。これは『一般理論』でも踏襲されています。『一般理論』で彼が主に意識していた不確実性は後者です。

 普通、新古典派経済成長理論では、ケインズの『不確実性』が、無視、といったら言い過ぎかもしれませんが、考慮されていません。これは非常に大きな世界観、ヴィジョンの差ではないかと、私は思っています。

  

3.3.2 危険回避行動(risk aversion)

 同じ消費財であっても、それを消費する状態によって、全く別の消費財と考えると議論がしやすくなります。少し、不自然に感じられるかもしれません。しかし、経験から言っても、暑いときのアイスクリーム1箇と、涼しいときのアイスクリーム1箇は物理的には差がないのに、値打ちが違うものと感じられることを考えると、これは見かけほど不自然な取り扱いではありません。

 さて、将来が不確実で、自分がどちらの状態になるかどうか分からないとすると、どちらの状態でもある程度の消費をできるようにして、最悪の事態を避けようとするのが普通です。保険料を払う代わりに、自動車事故を起こした場合に保険金をもらえるようにしておくと言った行動は、よくあることです。この場合、事故を起こさなかったときには保険料を支払う分だけ、消費できる金額が減りますが、事故を起こしたときには、保険金を損害賠償に充てることができるので、保険に加入していないときよりも消費できる金額は大きくなります。

 危険回避行動とは、「どんな状態が起きてもある程度の消費ができるように消費計画をくむ行為」です。安全運転をするといった行為ではありません。

 上の例のように、資産市場、保険というのも資産の一つです、を利用して、消費者はうまく危険回避をすることができます。危険回避のために資産市場を利用する以上、必然的に危険回避行動は市場で決まる資産価格、ひいては割引率に影響することになります。これがこれからの分析の課題です。

ここまでが準備で、次回は、モデルの説明に入る予定です。

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