あまりにもアニマルなアメリカ商業銀行

ラスカルさんが「「もっと需要を、そしてもっとレバレッジを」と訴えられています。

「昨年9月末の金融危機と、それによって深刻化する今回の不況という一連の経済事象について、経済書の世界でも事実関係の整理がなされつつあります。」ということなのですが、統計のほうも徐々に発表されてきています。なんといっても金融を総合的に捉えているのは、資金循環表です。「「アメリカの国債消化は問題ない(はず)」の第一回検証」で紹介したようにアメリカの2008年末のものが発表されています。日本のものも日本銀行から発表されました。

「今回の金融危機を招いた原因として、「アニマル・スピリット」を背景とした投資銀行レバレッジ経営が指摘されます。」のは確かですが、この循環表を見ると、本来、投資銀行に比べれば堅実であるべきアメリカの商業銀行も、ずいぶん「アニマル・スピリット」を持ち、「レバレッジ経営」をやっていたことが分かります。

(注)ここで商業銀行というのは、U.S.-Chartered Commercial Banksのことです。

銀行の貸借対照表を考えると、おおざっぱに言えば金融資産+実物資産=負債+資本となっているはずです。銀行の場合、それほど多くの実物資産は必要ないので、資本>実物資産になっているのだろうと思っていました。つまり、金融資産>負債です。負債を一挙に支払えといわれても、実物よりは流動性の高い金融資産を売れば何とか支払えるのだと思っていたと言うことです。

ところがアメリカの資金循環表を見てびっくり仰天。金融資産のほうが負債より少ないではありませんか。こんな数字になっています。

2004年末         マイナス5,264億ドル

2005年末         マイナス5,188億ドル

2006年末         マイナス5,487億ドル

2007年末         マイナス6,375億ドル

2008年第1四半期末  マイナス5,555億ドル

2008年第2四半期末  マイナス5,419億ドル

2008年第3四半期末  マイナス3,838億ドル

2008年末         マイナス1,787億ドル

もちろん、負債には期限があるので急にすべての預金が引き出されるわけではありません。

2008年末の負債、9兆8,544億ドルのうち急に返済が求められそうなのは、銀行からの借入、8,367億ドルと、普通、当座預金、7,042億ドルだけです。現金やFRBへの預け入れが6,363億ドルありますし、いざとなればFRBが貸してくれるはずです。実物資産だって売れないわけではありません。

しかし、「資産と負債のAsset Liability Managementの考え方からすれば、」こんなバランスは、「通常のリスク管理上は考えられない」でしょう。

リスク管理を考えなくとも、常識的として、銀行(金貸し)というのはお金を持っているものがやる事業ではないでしょうか。店や設備を資本でまかなえず、借金に頼らねばならない商業銀行というのはどうかなと感じるのですが。ちなみに2008年末の金融資産は9兆6,757億ドルですから、レバレッジは、マイナス54倍です。

アニマルスピリットありすぎませんか?レバレッジ効かせすぎていませんか?

反省しているので、金融資産を積み上げて、バランスを回復しようとしているのでしょう。負債が金融資産を大きく上回っている不良銀行がつぶれれば、セクター全体とすれば金融資産が負債を上回るようになるのでしょう。

さて、問題は金融資産の質です。問題になりそうなものを拾ってみます。

Agency-and GSE-backed securities 1兆0,685億ドル

Corporate and foreign bonds         5,429億ドル

Mortgage                   3兆7,535億ドル 

Consumer credit                8,785億ドル

合計                     6兆2,434億ドル

金融資産全体が、9兆6,757億ドルですから、64.5%です。

他に、Bank loans n.e.c.が1兆6,768億ドルあります。

日本の製造業などについては、ラスカルさんの「『アニマル・スピリット』万歳!『レバレッジ経営』万歳!」におおむね賛成なのですが、商業銀行については堅実さを求めたいです。取引銀行がいつつぶれるか分からないような状況の下で、大胆な投資などできるわけがありませんから。

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