「アメリカの国債消化は問題ない(はず)」の第一回検証

2008年第4四半期のアメリカの資金循環表が発表されました。「アメリカの国債消化は問題ない(はず)」で書いた次の予測の第1回の検証を行います。太字が前回書いたものです。

公的資金投入にともなう資金の流れを追っていきましょう。

 まず、政府が国債を発行し、中央銀行が引き受ける。

このとき、

政府の負債の増分は、国債であり、資産の増分は同額の中央銀行への政府預金です。

中央銀行の負債の増分は政府預金であり、資産の増分は国債です。

 次に、政府が銀行の優先株を取得(公的資金を投入)する。

このとき、

政府の負債の増分は、国債であり、資産の増分は同額の優先株です。

中央銀行にある政府預金口座から銀行の預金口座に振り替えが行われるので、中央銀行の負債の総額は変わりませんが、元の時点に比べると銀行の預金分だけ増加しています。資産の増分は国債のままです。

銀行の資本の増分は優先株であり、資産の増分は中央銀行に対する(超過)預金です。

今回の資金循環表を見ていきましょう。

まず、連邦政府の資産として、Corporate equitiesがはじめて登場しています。表についている脚注によると、これはTroubled Assets Relief Program(TARP)による金融ビジネスからの購入とGSEからの購入です。金額は1,884億ドル。連邦政府の負債である国債(貯蓄国債を含みます)の発行残高は、9月末の5兆7,775億ドルから12月末の6兆3,382億ドルへ、5,607億ドル増加しました。この全額が公的資金に投入されたわけではないので、こちらの方が大きくなっています。まあ、これは今まででも増え続けていたのですから当然です。公的資金投入はあくまで追加的な増発要因です。

公的資金の投入を受けた金融機関は、どのように行動しているでしょうか?アメリカの商業銀行の現金と準備預金は、2,325億ドルから6,363億ドルへ4,308億ドル増加しています。一挙に三倍です。

上の二つを照らし合わせると、昨年末の段階では商業銀行は投入を受けた公的資金の全額を現金と準備預金で保有しているといって良いでしょう。取り付け騒ぎなどの危険が無視し得ない以上妥当な資金運用だと思います。なお、年末の負債に対する現金と準備預金の割合は6.46%です。負債の中には長期のものもありますから、商業銀行部門全体としてみれば、十分な用意ができているといって良いでしょう。

このような動きは当然中央銀行の勘定に反映します。中央銀行への預金機関の準備預金(Depository institution reserves)は、2,221億ドルから8,600億ドルへ、6,379億ドル増加しています。ついでですが、国内銀行への窓口貸し出しも、2,000億ドルから5,590億ドルへ3,590億ドル増加しています。両建てで増えているわけです。これを差し引いてネットの増加を計算してみると2,789億ドルの増加です。

アメリカの金融部門は、2008年末には、おおむね前回の予想の第一段階の状況にあったといえると思います。(「おおむね」というのは、発行された国債中央銀行が一時的に保有するという想定が外れたからです。後で説明します。)さて、前回、この次の段階を次のように予想しました。

ここで公的資金の投入は完了しますが、資金の流れはまだ続きます。

中央銀行への預金には利子は殆ど付きません。ゼロという場合も多いのです。銀行は中央銀行に預けてあるこの資金をどう運用するでしょうか。

銀行の経営者は、この危機の時に何を考えて運用するでしょうか?私が経営者なら、まず第1に取り付けが発生したり、銀行間市場で資金を取れなくなった時、つまり資金がショートしたときの備えを考えます。次に考えるのは、今もっている資産が痛んで、損失が発生したときの自己資本比率の維持です。最後に、安全に収益を上げることを考えます。

では、どのように資金を運用するべきか。

資金ショートの場合、中央銀行に駆け込んで資金を借りれば良いのですが、そのためには、担保が必要です。ですから、中央銀行から借りるとき担保になるようなもので資金を運用すればよいのです。

自己資本比率を守るためには、リスクウェイトがゼロである資産で運用するのが一番です。

収益を上げるためには、確実に利子が払われる債券を買えばいいのです。できれば流動性の高いものがよいのは当然です。資金を固定化していいときではありません。

具体的に考えましょう。中央銀行から借りるとき担保になり、リスクウェイトがゼロであり、確実に利子が払われ、流動性の高い資産とは何か?

答えは単純明快。アメリカ国債です。

おそらく殆どの銀行は投入された資金の大部分を使って国債を買うでしょう。仮に全額を中央銀行からの国債の購入に当てたとします。(市場から買った場合は、中央銀行が同額を市場に売れば同じ結果になります。)

資金の流れはどうなるか。

このとき、

政府の負債の増分は、国債であり、資産は同額の優先株です。

中央銀行の負債、資産と元の状態に復帰する。中央銀行はトンネルの役を果たしたに過ぎません。

銀行の資本の増分は優先株であり、資産の増分は国債です。

結局、国債公的資金そのもので完全に消化されてしまい、この流れでは外部からの購入は必要ありません。単純に言えば、政府と銀行が国債優先株を交換するだけの話なのです。2,500億ドルの公的資本の投入とはそれだけのことです。

そして、危機がすぎれば、国債の償還に併せて優先株が償却され、国も銀行も元に戻って行くだけである。

おそらく財政にも、金融機関の収益にも殆ど影響はないでしょう。国債に対する利払いと優先株に対する配当が打ち消しあいますから。

なお、この流れでは通貨が増発されません。ドルが市場にあふれたりはしないのです。金利は変動しませんし、インフレも起こりません。

アメリカの国債消化は問題ない(はず)です。

要約すれば、ある程度金融不安が収まれば、投入された公的資金国債の購入に向かうというのが前回の予想です。

そうなるまで、誰が国債を消化しているかを見てみました。上で書いたように、中央銀行が持つと考えていたのですが違いました。

先ほど書いたように、国債の残高は5,607億ドル増加しているのですが、もっとも保有が増えたのは外国で2,735億ドルです。増加額の50%を占めています。外国の通貨当局が外貨準備として保有を増やしているのでしょうし、外国の銀行や企業も万が一の備えとして、アメリカ国債を買っているのかもしれません。当然ドル建ての資産ですからドル安によって損失をこうむる可能性はあるのですが、流動性が高さがそれを補っている、アメリカの投資家が世界に投資していた資金を本国に還流させているのでドル安にはなりそうもないし、と考えていたのでしょう。

2位が意外なことにブローカーとディーラーです。1,998億ドルの増加です。全体の36%です。9月末の保有額はマイナスだったのですが。

三番目がマネーマーケットファンドで1,560億ドル。28%です。この三者で100%を越えます。なお、通貨当局は7億ドルのマイナスです。

ブローカーとディーラーの保有分が、ほぼ投入された公的資金に相当しています。ブローカーとディーラーは、転売を目的として保有しているはずです。今後、うまく転売できるかどうかが問題です。

今のところアメリカ国債の利回りが急上昇したということもないようです。3%以下です。順調というか、何とか資金は回っているようです。

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